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五月三十日(火)に行われた「作者と読者の会」では、第十四回民主文学新人賞佳作の三作が取り上げられた。参加者は十五名(スカイプ二名含む)、司会宮本阿伎氏。
岩田素夫「亡国の冬」について、報告者の吉開那津子氏は父を治安維持法違反容疑で奪われた兄弟三人を中心にした一家の健気に生きる戦時下の描写に読みどころがあるとしながらも、視点の一貫性や父母の造形、検挙者が家族や周囲に与える影響などを書き込んで欲しかったという提起があった。その上で参加者から、若い読者には時代のきびしさが実感された、子どもの視点で時代に向き合うことの限界を補う技法上の探求が求められる、父が死ぬものとして仮釈放されたその不屈さが作品を悲壮感から免れさせているなどの意見が出た。
野川環「銀のエンゼル」について、報告者の田島一氏は大きな作品世界に挑んだ作者の意欲を評価する一方で、リストラ、妻の末期癌、娘の引きこもりという重い課題を消化できていないことが、前半の緊張感ある描写に比して後半の粗削りな展開や、当事者にしては夫妻関係が淡泊すぎるといった弱点を生んでいるとの指摘があった。合評ではさらに、銀のエンゼルに託した娘の思いが救いになっているがそれはあくまでも部分的な扱いになっているという意見や、テーマをリストラ一本にしてもよかったのではないかとの発言もあった。
杉山まさし「譲葉の顔」は現代社会が呼び戻しつづける戦争の記憶を描いた。報告者の風見梢太郎氏は戦争体験のない世代が戦争を語り継ごうとする貴重な作品だとした上で、主人公と肖像画依頼人との二つの戦争体験の錯綜が作品を分かりにくくしているとの問題提起が行われ、それをめぐって種々意見が出された。作者の杉山氏から、戦争に向き合うことによって人間の深さが見えてくる、戦争の個人的体験はもう一つの体験との出会いによって新たな認識の発見を得るのではないかとの問題意識をもっているという発言があった。
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