「作者と読者の会」 2017年4・5月号 


 四月二十八日(金)、本誌四、五月号掲載の田島一「争議生活者」と五月号掲載の横田昌則「その、とある一夜」の二作を取り上げる「作者と読者の会」が開催された。参加者は十六名(他スカイプ参加は、柳川の堤輝男さんと長崎県五島列島の田本真啓さんで、合わせると十八名)。司会者は櫂悦子氏。
 「その、とある一夜」については、能島龍三氏が報告。この作品は夜の「ひかりホーム」(知的障害者グループホーム)を舞台に、ほぼ現在形で進行するが、回想として、昨日「出て行け、うるさい」と書かれた一枚の紙片がホームに投げ込まれた事件の経緯とこれを巡って地域生活支援センターで対策会議が行われた場面が挿入されている。この作品のよい点は心理描写、人物描写だ、巧まぬうまさを感じたが、相模原の障害者施設で起きた殺傷事件を主題化した初作品であり、居場所のない人間の心の闇というテーマをそこから導き出して作品の世界を組みたてた、大変優れた作品だと報告された。討論では、この作品の視点にハッとさせられた、障害者は地域から出て行け、という差別意識は誰の心にも多少ともあることを抉り出している、坂元の形象はとりわけ印象に深い、作者の優しい眼差しで作品世界を作っている、犯人はどこかにいるわけだが、その問題を読者はどう考えるべきなのかがわかりにくい、作者はこれまで書いてきた作品の世界をより深めているなどの意見が出された。
 作者は、「僕自身福祉事務所に勤めており、相模原殺傷事件からかなりの衝撃を受けた。冒頭の暗闇はその衝撃を表現したものとも言えるが、状況に灯りをともしたかった」と語られた。
 「争議生活者」については、牛久保建男氏が報告された。「争議生活者」というタイトルは実に的確であるというところから話を始められたが、この作品が訴えかけるものは、一つは争議生活者の描写であり、もう一つは、現代社会にまかり通る非正規雇用の労働者に対する大企業の扱いの理不尽さにどう向き合うかという問題である。作者は相当期間この争議、またモデルとした人たちと関わり、『時の行路』『続・時の行路』、そしてこの作品とを書いたのであり、それはおそらく七、八年にもおよぶと思うが、単なる取材の域をこえたものだと感慨をこめて語り、人間が人間として扱われていない、モノとして扱われていることが、日本だけではなく、世界中で起こっていることまでを読者に想起させ、粘り強く立ち向かう人間の姿を描くことを通じ希望を描いた小説だ、と締め括った。
 討論では、冒頭から胸に迫った、大河ドラマのようである、読み終わったときIBMの闘いと重なって見えた、作品の主人公のように筋を通した人がいたことは確かに希望である、この作品は私の問題意識に多くのヒントを与えてくれた、などの感想が出された。
 主人公洋介のモデルであるという方も参加されていたが、「派遣労働者の闘いは初めてであり、一歩一歩やった。こういう風に闘った人がいるということを覚えていてほしい」と述べられ、最後に作者から「一番感謝するのはこの〝五味洋介さん〟です。〝五味さん〟がいたから私は書けた。今回は争議生活者の内面に踏み込んで、人間の物語として書くことに挑戦した」の言葉が語られ閉会となった。
  (青山次郎) 
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