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三月三十一日(金)午後六時より、文学会事務所で開催。かなれ佳織「ダブルステッチ」を工藤勢津子氏が、風見梢太郎「予感」を松井活氏が報告。司会は宮本阿伎氏。参加者十一名。うちスカイプ参加二名。
「ダブルステッチ」について工藤氏は、この作品は、女性が職場で真に輝くためには何が求められるかをテーマにしたもので、働く多くの女性の共感を呼ぶ意義深いものとなった。ただ、主人公が導き出した結びの文節は、少し飛躍があるのではないかと報告した。討論では、表題には、仕事に誇りを持ってしっかりやる、働く女性のセイフティネットの二つの意味が込められている。子どもがいても働き続けられる社会にしなければならないという作品になっていないのではないか。最後が演説調だが、主張は小説全体で述べるべき。大河内の人物像が、最初と最後では異なり存在感が薄いとの意見があった。作者は闘う女性ではなく、普通の女性が定年まで、どういう思いで働いたか、その日常を書きたかったと語った。
「予感」について、松井氏は読後に尾崎喜八の詩が心に浮かんだと紹介した。真下裕造と片倉の関係を描く作品群で、この作品は病状が深刻化し、今後の介護をめぐる最後の困難を「予感」させるものとなった。介護といえば、暗くつらいイメージがあるが、片倉と裕造の信頼関係が美しく、究極の人間愛を描いた介護ファンタジーに見えるのは作者の個性によるものだと報告した。討論では、介護のたいへんさは邪悪なものではない。介護の苦しみを描かないとリアリティが薄い。認知症の描写に納得したとの意見があった。作者からは、共産党員も認知症になったら悲惨なものだが、ユニークに描きたかったのでミノタウロスの絵を入れた。十分な世話をしてあげられず後悔が残った介護の経験を膨らませて書いているとの言葉があった。 |
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