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二月二十四日に文学会事務所で行われた。司会は橘あおい氏で参加者は十一名であった。
大浦ふみ子「谷間にて」を仙洞田一彦氏が報告し、討論した。
主人公は癌で死に直面し、友人医師に尊厳死を頼む。七転八倒して死にたくない。生きていても仕方ない状態になったら始末してほしいと言うが、それは優生思想だと指摘される。ナチスは社会に役に立たないと決めつけ、障害者を第一に抹殺した。国が人の生死を決めている。
今日本では高齢者が増え、尿カテーテルや胃ろうに診療報酬が付かなくなった。入院時には本人や家族に延命処置の意思を確認する。自然死は衰弱していく姿を見る家族がつらい。断末魔の苦痛もある。それで延命治療を望む人もいる。国は臓器移植推進の法律を作った。医者は移植のため、患者の臓器を壊さないことを第一に死の判定をすることになるかもしれない。
小説としての組み立てと主題がかみ合わない。しかし難問に挑戦した貴重な告発小説だ。
青木陽子「北横岳にて」を乙部宗徳氏が報告し、その後感想を話し合った。
癌の再発で主人公は死の不安に陥る。自分の命を見つめ、北横岳でやれることをやるしかないと思う。素晴らしい夫婦愛だ。深い愛情で結ばれていて余韻が残るという感想が多かった。作者も病気になり夫を頼った。助けてという気持ちが作品に出たと語った。小説として良くまとまっている、暗さがない。感動した、書く時参考にしたい、雲が晴れすべてが美しい世界になるのは死を受け入れた心情か、結末がよいが、妻を亡くした男は四年後の夫を象徴しているとの感想もあった。主人公の立派な決意・告白だと読者が作者を尊敬してしまう。作家として社会に切り込むなど普遍的なものを描く気概で挑んでほしいという注文も出た。作者は作家として厳しいところに自分をおき生と死を見つめ良い作品を書きたいと語った。必死に描いた思いは十分に伝わる。書き続けて皆を元気づけてと作者への声援で終わった。
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