「作者と読者の会」 2017年12月号


     作者と読者の会
 二〇一七年十二月二日。支部誌・同人誌推薦作の五編のうちの四編について、報告に基づいた感想、批評が語りあわれた。司会は櫂悦子氏。参加者は会場いっぱいの二十一人だった。
 まずは優秀作に選ばれた宮波そら「ホコリの塊」を橘あおい氏が報告。テーマについて「書店でアルバイトをしながら図書館司書を目指す女性を通して、図書館の民間委託問題とあるべき姿について問う作品」とし、主題が明確に示され、比喩表現も工夫されていると評価した。
 参加者からはまず、「ホコリ」には「誇り」の意味が重ねられていると口火が切られた。就職氷河期の気持ちがよくわかる、図書館法の理想がもられている、今の時代がよくわかる、図書館の役割を気づかされたなどの感想とともに、売れるものしか置かない書店の問題点も明確にとの注文も。作者からは、図書館の役割と、誇りをもった生き方をしたいという意図が伝わったら嬉しいと語られた。

 横田玲子「落穂拾い」の報告は仙洞田一彦氏。中流志向の時代から格差社会へ移る時代の貧困の連鎖が書かれ、自然描写がいいと評価。結末について、農業学校への進路にも未来はなく、作者の含蓄のある言葉が欲しかったと述べた。参加者からは、孫のやるせなさが描きだされている、祖母が冷静に捉えられている。貧困家庭の姿が伝わってきた、そうは思わないなどの感想。作者は、制服が買えないという実話に刺激を受け、貧困について考えて創作したと語り、体験でなく創作と知っての感嘆の声が聞かれた。

 作者は欠席だったが、荒川昤子「午後のひととき」について、能島龍三氏が、構成、主題、文章表現などを詳細に分析したレジュメを用意して報告。高齢になって得た時間を楽しくはばたく姿を描きつつ、それを抑制する世俗性に厳しい目を向けた短編であり、多様な生き方を認め、社会の常識を洗い直す力を強調。娘二人が印象的という感想のほか、常識的に終わっているという意見もあった。

 柏木和子の評論「小説『舞姫』を読む」の報告は牛久保建男氏。まず評論で入選作が出た喜びを語り、評者はまず関心の端緒に沿って、奇をてらわず鷗外の苦悩をみつめ、思いのこもった作品と評価し、そのうえで、作品紹介中、母の自死を結論づけていること、ナウマンについての部分で根拠があげられず説得力に欠けるなどを指摘した。参加者からは小説のように面白いとの感想や、構成についての意見、文体についての文学史上の意義づけの注文も出された。柏木氏は、講座講師の経験から、「舞姫」がとかく誤って読まれていると感じていることなど、執筆の動機が語られた。

 残る入選作、田中恭子「こむニャンコ」は、作者が札幌在住であり、取り上げられなかったが、休憩時間などに、いい作品だったとの感想が聞かれた。
 合評の終了後の「入選者を囲む集い」には、仕事を終えて駆けつけた人もあり、予定時間を超えて賑やかな語りあいが続いた。      (澤田章子)
 
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