「作者と読者の会」 2016年7月号 


 
 六月二十四日(金)午後六時より文学会事務所で開催。司会は旭爪あかね氏。十八名参加。
 三原和枝作「腕時計」について丹羽郁生氏が報告。アスベストのことがよく調べてあり、勉強になった。息子と兄がなぜ死ななければならなかったのか。二人の死を通して主人公がどのような認識に至ったのか。描き切れていないので、作品の構造として成功していない。息子のことが導入だけで終わった。日本社会の仕組みの中で、真綿で締め付けられるような国民の姿をもっと追究してほしかった。
 合評では、作者が自分のことを大切にして書いている、胸に落ちる文章、風呂場の場面や兄と妹のやりとりの描写がいいなどの意見があった。
 一方、息子と兄の両方を書いたことに対する意見が多かった。小説の中で両立させることが難しい。主人公の再生とも取れるが、題が示すように息子に戻ってしまう。結果的に消化しきれず、何を書きたかったのかはっきりしなく、テーマも分かりにくい。久美子の感情をもっと描くべきだった、等の意見がだされた。
 作者は兄の事が描きたかったが、不十分になってしまった、二人の死から何を認識したのか、そこを深めるべきだった、と話した。
 寺田美智子作「岐路」について澤田章子氏が報告。国際的、国内、日本共産党でも、また文学運動にも影響があった大きな問題を、よく材料にし、若い教師の心の問題として描いた。政治理念上の問題でもあるが、人間関係の苦悩にこだわる、作品水準の高さがあり、緊張と共感をもって読んだ。人物の捕らえ方にも膨らみがあり、作者の懐の深い人間性が表れている。「多賀議員」については、歴史的事実なので実名でもよかった。
 合評では、モチーフが素晴らしく、大きな問題によく取り組んで描いた、共産党の問題は背景で、初恋を短編として描いたことを評価したい、などの意見があった。一方、五十年以上も前の党内部に関わる問題について、若い人も含めてどれだけの人が分かるか、少なくとも五〇%以上の読者が分かるように描きたい、若い人にも分かる作品とするには、自分の生き方を継承させるために客観的に練り直すことも大切、などがあった。また、良平の一年が描かれてなく、みどりとのやりとりをもっと深めるべきだった、などの意見もあった。
 作者は、素晴らしい教育実践をしていた人が一年後に変わってしまう事、大国主義に屈しない独自路線のことを描きたかった、人間として読み取ってもらわなければいけないと思った、と話した。
    
  (青木資二) 
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