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四月二十八日(木)は、井上通泰「彷徨える秋」と、山形暁子「断絶を乗り越えて」を取り上げて行われた。両作者を含めて参加者は十三人。司会は宮本阿伎氏。
「彷徨える秋」は、井上文夫氏が報告された。すでに発表してきた連作をまず丁寧にたどり、今作の独自のモチーフとテーマについて言及した。幼い頃からの経緯で継母ハルに憎しみの感情を払拭しきれたとは言えないながらも、介護をしなければならない境遇に陥っている裕治の混迷する日々を描いた作品である。八十歳を過ぎてすっかり気弱になったハルを憐みの対象とも見るようになった裕治は、心の葛藤を抱えながら、ハルに向かい続ける。ハルの苦悩に分け入ろうとする裕治の心境を描いて、裕治の心の成長を探り明らかにしようとした作品だと結論付けた。
参加者からは、自己導尿の介助などの問題にも突き当たり、行政サービスを受ける問題にも関わらざるをえなくなり、介護保険制度などについて詳しい説明的描写があるが、小説の内容とずれてはいないものの、長すぎるのではないかという疑問が出された。いわば誰でもが知っていることで、小説としては違和感がある、また読後感が人間的な温かさに欠ける印象になっているという発言もあった。連作にあたる前作、「村の墓」「夏の終わりに」「老女の泉」などと比べても、別段裕治の成長を明らかにしたとは感じられなかったという意見も出された。
作者からはハルの現状を描きながら、今日の日本の介護事情や、村や家庭が衰退してゆくありよう、やがて消滅してゆくのではないかという危機感を覚えながら書いているなどの弁が述べられた。
「断絶を乗り越えて」については、牛久保建男氏が報告された。長い間の嫁と姑の関係、伯母とそのつれあいたちとの関係が複雑に絡み合って和解にいたる?末を描いた作品であるとまず述べられ、その根底には職場をやめず働き続け、女性差別とも闘った主人公の、仕事と家庭を両立させて生き抜いてきた背景があると指摘された。
参加者からは、沙絵子の夫、圭介が義母の葬儀などで、義姉の賴子や敦子が沙絵子に冷たい仕打ちをしても、守ってくれたのに、なぜ離婚してしまったのか、なぜ敦子や賴子が沙絵子に反発を感じいじめるのか、すっきりと分からない奇妙な感じがつきまとってしかたなかったという発言などがあった。小説としてはその辺をよりときほぐす必要があるという指摘もあった。また「断絶を乗り越えて」という表題も少し大げさ過ぎるように感じたという感想も出された。作者からは、死をひかえた賴子から不意打ちの電話があり、長きにわたった疎遠の日々を思い返しながら、最後の願いを聞いてほしいと沙絵子に限りない信頼を寄せてくれた賴子との別れを書きたかったなどが話された。
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