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七月三十一日午後六時から、文学会事務所にて開催。『民主文学』八月号より、風見梢太郎「星明かりの庭」(報告=橘あおい氏)、東喜啓「カボチャとナスの物語」(報告=牛久保建男氏)を合評。両作者を含め十三人が参加(スカイプで参加一人)。司会は宮本阿伎氏。
「星明かりの庭」について橘氏は、主人公の裕造が認知症になった片倉を支えていこうとする決意には、同志への愛情と同時に新しい闘いに挑んでゆくことが感じられる。ラストの場面で、星明かりの庭に咲く白い花の描写が、展望を感じさせてとりわけ美しい。共産党員としていかに生きるかが描かれている。同時に、二月号の「最後のビラ配り」の続編となっているためやや説明的な部分が多くなり、裕造のショックが、実感として伝わりにくい。また『カラマーゾフの兄弟』のアリョーシャの驚愕や「息子同様です。息子だって、こんなにはしてくれんだろう」という片倉の言葉を嬉しく思う裕造の気持ちにもう少し迫真力がほしかった、と報告した。
討論では、今日的な共産党員像を描いた一つの成果である、『カラマーゾフの兄弟』の引用は唐突感があるが、裕造が小説を書くきっかけとなった人だけに、これからそれを支えていこうという気持ちは伝わってくる、「片倉との付き合いが新しい段階に入ったのだ」の意味を、読者に分かるように書き込んで欲しい、との意見がだされた。作者は、大企業で最後まで共産党員として頑張った人は少ないが、退職してもう一度社会進歩の方向に歩む生き方を考えて欲しいというテーマを追求したいと述べた。
「カボチャとナスの物語」について牛久保氏は、ポニー教室という職場の不当な実態とそのもとで働く主人公・松本(あだ名カボチャ)の姿、正職員になりたいという思いをよく描いていて、松本の気持ちに寄り添って作品を読むことができる。彼が、同僚の細川(ナス)の援助で、「労働組合をつくっていっしょに正規になろう」という呼びかけにこたえて職場に残る決意が読者には伝わる。同時に、仕事への誠実さと子どもへの親切な対応の姿と、他人のことには関わろうとしないシニカルな態度という松本の二面性が説得的に描かれていない。また、組合結成をよびかける細川の人間像ももう少し描いて欲しい、松本の内面を描く地の文にも工夫がほしいと、報告した。
討論では、人間のいい面と悪い面を描くのが上手い、細川は面白い人間だが組合の話は必要とは思えない、ノウメンと呼ばれる女性職員が一人悪者になっているがもう少し人物像に膨らみが欲しい、組合をつくろうというのに、二人だけでいいのか、ノウメンが排除されているのはどうか、などの意見がだされた。作者は、職場の労働者がばらばらにされているという設定にしたのは、実態がきびしいからで、そこで生きる若者の葛藤、労働現場の孤独を描いていきたい、と述べた。
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