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五月二十九日(金)午後六時より文学会事務所で開催。新人賞・佳作受賞の三作を取り上げた。木曽ひかる「月明りの公園で」を能島龍三氏が、野山あつむ「CAVA!」を久野通広氏が、成田富月「つなぐ声」を旭爪あかね氏が報告。司会は乙部宗徳氏。作者の木曽氏を含め、十六名が参加。
「月明りの公園で」について能島氏は、主人公の設定や就労支援員の仕事の描き方に無理がない、リストラで家族までも崩壊した人間が真に生きる意味を掴み取ろうとするところに感動がある、最後のシーンの「月明り」の意味が読者の胸に落ちる、公園で課長や娘たちと会う偶然性や結末での五人の求人請求の展開には通俗的な感もあるが、人生で大切にしなければならないものを見出す姿を描き、今の国の在り様を問題提起している、と報告した。
討論では、まとまったいい作品で、就労支援の大変さがよく描写され、地道に努力していけば生きることの質的変化をもたらすことが描かれている、反面、最後の場面は自己満足で終わり、リアリティを失わないか、支え合う現実の厳しい姿が浮かび上がっているか、などの意見があった。作者は自らの経験から就労支援の難しさを描きたかったと述べた。
「CAVA!」で久野氏は、インターネットサポートの職場の様子がよく描かれ、顔が見えなく人と人との繋がりが薄い今の世界で顔を合わせて感情が流れ合う展開はいいが、咲の仕事への誇りややり甲斐が描かれてないところが感動を薄め、智との結婚で結末となっているが、この社会の中で今後二人がどう生きていくのかに課題がある、と報告した。
討論では今を象徴する企業・職場の様子がよく描かれているが、労働も恋愛・結婚も同じ条件闘争をしていて箱庭社会を見ているようだ、結婚したがその後上手くいくのか、登場人物が多く冗長的、などの意見が出た。
「つなぐ声」で旭爪氏は、河内の助言が温かく的確で作品の魅力、直接の繋がりでしか解決できないことを描きたかったのではないか、寂しさを癒すのは聞いてくれる相手だけじゃないところを掘り下げてほしい、楽しめるような地の文があってもいい、と報告した。
討論では、自殺願望など電話だけで繋ぎ止める活動やNPOの職場の様子がよく描かれている、若井が坂田と直接会うことについてはリアリティがあったかどうか、小説の展開とリアリティの関係などが論議となった。最後に三作とも今日の現実への眼を見開かせてくれる内容があるとの締めくくりにふさわしい発言があり、盛会のうちに会を終えた。
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