「作者と読者の会」 2015年1,2月号 


 
 一月三十日(金)、能島龍三「北からの風に」(一月号)、風見梢太郎「最後のビラ配り」(二月号)をテーマに、八名の参加で行われた。
 「北からの風に」の報告者青木資二氏は、作品構造の図を含む詳細なレジュメに基づいて、小児思春期精神病院内の特別支援学校分教室に転任した主人公教員と担任した生徒孝弘の、病棟を交えた約半年間の関わりを描きながら、足の傷の痛みが主人公に回想させる「『みんなが幸福に生きられる社会を作る』という約束」を果たさねばという作者の強いモチーフが感じられ、障害児教育にも競争と成果主義が及ぶ現在の政治状況の中で、読者にも精神障害に苦しむ子どもの実態認識や向き合い
 方、何ができるのかを考えさせる作品であると報告した。その上で、主人公の「胸が痛む記憶」「避けて通ってきた話」の正体は何か、「約束」を果たす努力への自問という読みでよいか、また主人公が車椅子を操作し女性への攻撃を避けて以後、孝弘の攻撃性が増した理由は何か、と問題提起した。
 討論では、孝弘のような生徒の実態を知らなかったので衝撃を受けた、主人公の努力に勇気づけられた、丁寧な教育を支える政治の必要を感じたなどの意見の一方、完治を望む孝弘と主人公の約束の乖離に作者自身まとめ切れていないものを感じたとの意見も出た。
 作者からは、自分の「絶対」とは言えない約束が孝弘の激しい攻撃性を誘発し、転院や身体障害の原因を作ったかも知れないという主人公の悔恨が主題の一つと説明があった。
 「最後のビラ配り」の報告者最上裕氏は、レジュメに沿って、労資協調労組しかない職場で定年を控えた主人公の組合活動を描きながら、後に続く仲間のため少しでも足場を残して職場をよくする運動に関わり続けようとする活動家の心意気を示し、楽天性を感じる明るく閉じられた作品だと報告した。その上で、他作品と登場人物の名前が同じであるのは、関連作品とする意図かと疑問を述べた。
 討論では、管理者との緊張したやり取りの場面にドキドキした、自分を育ててくれた人とこれから育てなければならない人の登場に、作者の総括的な作品の一つと感じたなどの一方、運動の継承とは別に、主人公が職場をどのように変えようとしていたかとの関連に課題が残されるという意見も出された。
 作者から、定年前後を描いた多くの作品と同じにならぬよう、労資協調組合内の少人数勢力のたたかいのスケールも考え、自分の他作品との関連も意識しつつ人間の結びつきを書いた。笠谷のように、本当は多くの人がたたかいに加わっているとコメントがあった。
    
 (松井 活) 
「作者と読者の会」に戻る