「作者と読者の会」 2014年7月号 



 六月二十七日六時から文学会事務所で開かれた。井上通泰「村の墓」を仙洞田一彦氏が、野里征彦「岬叙景」を櫂悦子氏が報告した。出席者六名。
 二作品とも共通して、実体験に近く感じられ、書き慣れていて文章が上手で読み易いと感想が出された。
 「村の墓」は、主人公が故郷とは何かを考え、また故郷とは何かを考えることは原発事故で故郷を追われるという今日的問題を考えることにもなる。帰るところがあるから旅というのだろう。裕治は旅先から芳江に手紙を出すが、人生と旅を意識して重ね合わせ「帰る」ことを考えた手紙にすれば、よりテーマが深くなったのではないか。田舎暮らしのわずらわしさを描写し、それでもなお故郷に引っ張られるものを浮かび上がらせている。共感して読んだという声が出された。
 「岬叙景」は今書かれるべき小説である。津波被災地もようやくここまで書ける時間がたった。被災は風化させてはならず、書き残されねばならない。水彩画のように淡々と描かれるが、作品の中で人物が動き、登場人物それぞれが面白い。復興の現実もわかる。展開も作者の計算が行き届き、テーマも明確だ。三陸は津波を乗り越えて来た歴史があるためか、希望を感じる。しかし福島は違うという話もされた。町会で皆に鬱陶視されている人に「おれを非難する暇があるんだら、東京電力を非難しろ!」と言わせる意図がわからないという意見もあった。
                                         
 (栗木絵美) 
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