「作者と読者の会」 2014年5月号 



 四月二十九日(火・祝)、五月号の石井斉「恋風」と松本たき子「アラサー女子がいく」を合評した。いつもとは異なり、祝日の午後の開催で、十七人の参加で活況を呈した会合だった。
 司会は岩渕剛氏。「恋風」の報告者は塚原理恵氏。塚原氏は報告の中で「統合失調症という心の病気を持ちながらも、信頼し合い、支え合い、明るく生きて行こうとする夫婦の姿が伝わってくる作品。ただ、時間の流れがわかりにくい点もある。主人公の焦燥感なども描かれているとさらに良かった。作品名は『グッド』の方がふさわしいのでは」と指摘。討論では「作者自身や過去の作品を知っている読者なら良いが、そもそもなぜ統合失調症を患ったのかなど、省略されている部分がある」、「生活の苦しさを描く 場面などストレートに表現せず、言葉を選んで描写に徹しているところが良い」、「久美が主人公の作ったカレーライスを『まずいけど食べるわ』と言うことを期待するところなど、丁寧に心情が表現されている」などの感想が出された。
 「アラサー女子がいく」の報告者は橘あおい氏。橘氏は報告の中で作品の魅力について「のびのびとした描写が魅力だ。三十歳前後の女性の日常生活が良く伝わる。ただ、特定秘密保護法案について疑問を語るネイルサロンのリカがもっと早く出ていた方が分かりやすい」と指摘。討論では、「全体に軽い印象はあるものの、ノンポリの若い独身女性を主人公にしたことがうまく生かされている」、「恵理の言葉がけっこう、きつい。恵理の苦しみや喜びがもっと描かれていればさらに良い作品になったのでは」、「面白く、すらっと読めたものの、何か物足りない思いが残る」「最後のNHK番組への反応の場面など、恵理の変わり方がちょっと唐突な印象もある」などの感想。作者は、「主人公の背景の描き方がやや不十分だった。自分の体験を断片的に組み合わせた人間像になった。言葉がきついという指摘だが、言葉が持つ怖さも感じた」など作品完成にいたる経過を語った。
                                               
(夢前川広) 
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