「作者と読者の会」 2014年2月号 


 
 一月三十一日(金)午後六時より、文学会事務所で開催。工藤勢津子「山の端に陽は落ちて」を澤田章子氏が、丹羽郁生「里かぐらと秋風」を宮本阿伎氏が報告。司会は乙部宗徳氏。参加者十五名。
 「山の端に陽は落ちて」について澤田氏は老々介護の始まりを感じさせる母と娘の日々が、濃やかな心理的表現とユーモアをこめて描かれており、ともすれば暗く悲観的になりがちな題材をほのぼのとした明るさで描いた好短編。母と娘の感情の交叉が巧みにとらえられ、刈り込まれた簡潔な文章で表現されており作者の円熟を感じると報告した。
 討論では、ユーモアを持って母と娘が支えあっていく介護に励まされた。母を受け止めて、思索した作者独自の考えが散りばめられていて新鮮という意見が出た。作者は、老後は人それぞれであるが、老後が一番幸せであってほしい。現実はもっと厳しいが娘との関係が良くなれば明るい認知症もあるのではと期待している。私なりの人間賛歌をいつも書きたいと思っていると語った。
 「里かぐらと秋風」について、宮本氏は過去の作品にもふれつつ、外在描写だけで成り立ち、名でも呼ばれない少年の内面描写も施さず、ほとんど例のない小説で、油彩画を見る趣きである。時代と農村の暮らし、父が入院して困窮していく一家を俯瞰的に描いて読者に考えさせると報告した。
 討論では、かぐらや風景描写がリアルで時代や郷土の匂いが感じられ、少年の心を内面に入らずに描き切っている。時代背景の中、父親や家族を典型として捉えるためにこのような手法をとったのではとの意見があった。作者は、読者が読み取ってくれてよかった。風の中に立っている少年が見えて、小説で絵を描きたかった。初めての試みで難しかったが、民主文学の森の一本の木として見てくれればありがたいと語った。
   
 (最上 裕) 
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