「作者と読者の会」 2014年12月号 



 十二月十三日(土)午後二時から文学会事務所で作者と読者の会が十四名の参加で開かれた。今回は支部誌・同人誌推薦作の入選七作品の中から四作品の合評となった。乙部宗徳氏の司会で進められ、鹿山文史郎「ヒップホップ・ダンス」、鈴木よし子「庭が荒れている」を仙洞田一彦氏、遠山光子「ことば とどけ」、岡村庸子「桜の木の下で」を澤田章子氏がそれぞれ報告者となり、合評は各作品毎に行なわれた。
  まず「ヒップホップ・ダンス」で仙洞田氏は、「暮らしを守る会」の唐崎会長の活躍を描いているが、生活困窮者の母と息子の関わりという点では不足を感じると指摘。合評では、唐崎の人物造形はよく描けている。老人力を発揮している。生活保護申請の場面で、世帯単位の原則があるので世帯分離しなくてもよいのではないかという意見などがだされた。
 「庭が荒れている」では、余計な言葉がなく簡潔な描写がいいと仙洞田氏。回想の入れ方に注意が必要。「心境小説」として読んだなどと感想が出され、大雪のなか新潟から駆けつけてくれた作者の鈴木さんは「庭が家族の非常に大切な存在に思えて」と「庭」を題材にして三作品ほど描いてきた胸中を明かした。
  後半の二作品に澤田氏は報告レジュメを用意。「ことば とどけ」では、「子どもにとっては今は今だけ」という子どもの時間の大切さがしっかりと押さえられ、保育や教育に携わる志の高さをもった作品と評価した。作者の保育に対する理念・理想が書き込まれている。あるいは重複在籍の制度は日本の教育のなかにはなく、聴覚障害者にとって手話が第一言語なだけにその場面がもっとほしかったと厳しい意見もだされた。長野からみえた遠山さんは、文学同盟時から入会していて一度だけ支部誌・同人誌推薦作で最終選考に残ったことがあるが、今回の作品は調査も推敲も不十分であったと振り返った。
 「桜の木の下で」は、作品のまとまりと描写力に優れているが、戦後の時代をもっとしぼってもよかったのではとの指摘もあった。合評では母子寮の実態が分からない人もいるのでは。子どもの心情表現が大人の言葉になっていないかなどのアドバイスが多くだされた。作者の岡村さんも鈴木さん同様最終選考に残ったことがあり、今回はフィクションで分かりやすい作品を描こうと思った、深夜放送で貧しい人を馬鹿にしながらも自ら傷ついていた子どもの話を聞いて、正太を創作したと語った。
 作者と読者の会終了後「入選者を囲む集い」は組織部長の岩渕剛氏が進行し、入選者の皆さんの創作体験なども訊き互いに学び合えた会となった。
    
(たなかもとじ) 
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