「作者と読者の会」 2014年11月号 



 十月三十一日(金)午後六時より、文学会事務所で開催。旭爪あかね「約束」を風見梢太郎氏が、須藤みゆき「六年間の希」を松井活氏が報告。司会は乙部宗徳氏。参加者二十二名。秋田県や佐賀県からの参加者もいて、会場いっぱいの盛況であった。
「約束」について風見氏は、アルコール依存、離婚という重い題材を扱っているが、息子との約束に守られ、周りの善意に助けられて、立ち直るという美しい物語である。作者の新しい境地を開く作品となったと報告した。討論では、フィクションで構成した登場人物の半生を短編に凝縮した作品で、読んで満足感を得た。たった一度の失敗で断酒を決意するのは、きれいすぎるのではないか。アルコール依存症は、もっと悲惨。十六年間の時が飛ぶ構成はおもしろいとの意見が出た。作者は、ずっと書けないで悩んでいたので、ここに出られてよかった。最初のフレーズは、いつも自分が思っている言葉である。自分にとって子どものように大切な文学を続けるために適度なお酒との関係を願い、禁煙を達成した友人の話を膨らませて作ったと語った。
 「六年間の希」について、松井氏から六頁のレポートを用意して、約三十五分にわたって詳細な報告があった。自己否定感、罪障感を生み出す生活苦、生活感情の希薄さや自死への揺らぎの心理描写は圧巻である。ただ、「私」のリアルさに比べて、夫や義母に対する眼は、ステレオタイプに流れた観を否めないと報告した。討論では、夫が書ききれていないのは、「私」の主観で書いたものなので限界があるのは仕方ない。解決策の見えない現代人の孤独、不可解なものをそのまま提示するのも文学の役割ではないかとの意見があった。作者からは、展望は無くても格差から生まれる悲劇を描きたかった。私の主観ではあったが、夫に対する温かい目も描くべきだったとの言葉があった。
  
(最上 裕) 
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