|
八月三十日午後六時より、文学会事務所で八人の参加で開催された。九月号応募短編小説特集から仙洞田一彦「ヒルズ」を久野通広氏が、能村三千代「ヨシ乃さん」をたなかもとじ氏が報告した。司会は乙部宗徳氏。
「ヒルズ」について、久野氏は、「弱者をないがしろにする現代の社会状況をカリカチュア(風刺)した作品で、おごりたかぶる者を弱者がしっぺ返しする民話にも似て、ユニークな作品」(牛久保建男氏・赤旗時評)という評価のように、全体的に肯定的な作品であることに異存はなく、団地住民の米松の形象にリアリティがある。それに比し、ヒルズの白方はリアリティが不足している。風刺は社会や人物の欠点、罪悪を遠回しに批判することだが、白方に作者の視線が届いていないので本当の意味の風刺になっていない。白方の職業は何か、なぜそこまで団地住民を敵視するのかが描ききれていない、と指摘した。
討論もおおむね久野氏の報告にそったものであった。仙洞田氏は、持てるもの、持てないものを描く上で、意識的に実験してみたと語った。
「ヨシ乃さん」について、たなか氏はタイトルがユニーク。年配の方だと想像がつき、物言い、立ち居振る舞いに合っている感じがする。孤独の中に生きる晩年の女性のせつなさ、誰にも迷惑をかけたくないという心理がよく表現されている、と報告した。
討論では、筆者がヨシ乃さんに寄り添って書いているところがよい。言動につじつまの合わないところがあるのは初期の認知症か、決して嘘を言っている訳ではないと思われる。登場人物は善人ばかりである。自分が認知症になったとき周りが久恵と佐紀子のような人であってほしいといった意見が出された。能村さんは、トイレットペーパーを山ほど買う方を見たのが書くきっかけになった。お年寄りは周りに迷惑かけていいと思う、と語った。
|
|