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七月二十六日(金)午後六時より、文学会事務所で開催。能島龍三「生きる」を丹羽郁生氏が、青木陽子「揺れる海」を風見梢太郎氏が報告。司会は乙部宗徳氏。参加者十七名。
「生きる」について丹羽氏は、現代の青年の働き方、生き方というアクチュアルな題材を実によく描いていると評した。洋司の唯との関係や進展も、過酷な労働の問題を見据えていていい。導入から主人公の仕事、働き方、時や場所が明示され、読者に配慮されている。展開のスピード感、迫力も重なって、中心人物の世界がはっきりと描かれた作品でもある。但し、妻子持ちの男性と付き合う唯の影の描写が薄いかもしれないと報告した。
討論では、大会で提起された若い人の労働問題を率先して描いている、労働や事故の描写が凄い、過酷な労働の中で唯と出会って少しずつ成長していく姿に共感した、若い人への励ましにもなっている、など意見が出た。社会変革に目覚める洋司が立派すぎる、唯の影の部分が描き切れていない、若い人の気持ちが掴み切れていない、などの意見もあった。作者は影の描写はこれでいい、自分の世代の立場で描いた感もある、今の青年の置かれている状況を描くことができてよかったと説明。
「揺れる海」で風見氏は、若者がごく自然な形で3・11や原発にも及ぶ社会認識を広げていく作品で、学ぶべきことが多いと評した。自分を取り巻く親族や祖先への思いを深め、本来あるべき自分を取り戻す充実感がある。仏壇がある違和感の描写、ひっそり生きる茅夫妻の姿、地震で海が揺れる場面など、読後も鮮やかに目に浮かぶシーンも印象的。但し、人間関係が複雑で混乱、若い人の未熟な思考に付き合いきれない、主人公の行動に説得力の欠けるところもある、と報告。
討論では、深刻な話題を若い人中心にユーモア交えて描き、楽しく面白い、忘れちゃいけないこととして原発と満洲開拓の問題が指摘されている、帰る場所がないという切り口もいい、人物設定が上手く他の作品も読んでみたい、などの意見が出た。反面、作者の思い入れが強すぎる、内容が広がり過ぎている、満洲を語るところは説明的などの意見もあった。
作者は「青年に対する危機感があり、描くことによって向き合おうとした。原発問題は日本で生きる社会の背景として欠かせない、周りに若い人がいなく、無理な展開や強引なところもあるが、楽しく描くことができた」と語った。
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