「作者と読者の会」 2013年4月号 


 
 三月二十九日、四月号掲載二作品についての「作者と読者の会」が開催され、十三名が参加した。司会は乙部宗徳氏。
 丹羽郁生「道」について、たなかもとじ氏がA4判七頁のレジュメをもとに、時代背景と作品を分析し、「主人公鉾田は作者がモデル。高校時代の友・江沼雄次の自殺を回顧し、江沼が何故自殺に追い込まれたのかを考察。自分に助けられなかったのは何故かと悔恨する。当時以上に格差が一層拡大する現代社会への警鐘となっている」と報告した。
 「作品を読み、是非この会に参加したいと思った。素晴らしい感動的な作品。時代は変えられるというメッセージが伝わった」「心に残る作品。小説の書き方を学んだ」「人間の可能性に自分が気づいたことを、友には伝えられなかった悔恨が説得力を持って描かれている」「タイトルは当時の『若者たち』のフレーズを想起させる」「心情が良く描かれている」など読者の感想を受け、作者は、「以前からいつか書きたいと思っていたモチーフの強い題材だった」「執筆前の準備で、十五歳から書き続けていた日記を調べたら、その中に自殺した友人の手紙も挟んであって、衝撃を新たにした」「作品は、手を入れたい所もいくつかあって自分では不満が残っている」と語った。
 最上裕「陸橋を渡る足音」について、仙洞田一彦氏が、「リストラ、希望退職募集は経過がそのまま小説になり、小説にするのが易しそうである。が、人は何故闘いに立ち上がるのかというところまで、つっこんで書かなければならないので難しい。主人公が面談で、メモを取るノートを開くまでの心理的な変化が、もっと描きこまれなければならない。企業の労組の対応はもっとエゲツないのではないか。面談でも、会社側はもっと厳しいのではないか。小説が物足りない印象を与えているのは、三人が辞める決意をしたことになっていて、悩んでいる状態で終わらせなかったためではないか。まだ、闘いの入り口に立っただけだ」と報告。
 「家庭が良く描けている。活動家ではない人物を描くのは難しい。私だったら、次の面接のある朝で物語を終わらせる」「小説のつくりがうまい。展開の早さが読み易く、よく描けている。最後の終わり方は、このままで良い」など、ラストのリアリティについて、意見が分かれた。作者は、「職場のリストラについて、何か言わなければいけないと思って書いた。最初はルポ形式も検討したが、結局小説にした。リストラは今後もっと厳しくなって行く」と語った。 
   
(林計男) 
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