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七月二十七日(金)午後六時半から十名の参加で開催。八月号の工藤勢津子「遠い花火」を井上文夫氏、櫂悦子「南東風が吹いた村」を風見梢太郎氏が報告。司会は乙部宗徳氏。
井上氏は「遠い花火」について、出だしの描写が印象的で、娘の「わたし」から見た寡黙で口べたで、誠実一筋に生きてきた父の生涯が良く描かれていると評価。二度の召集経験、農機具造りなどの仕事に就いた父親にとって、自分の家を新築したことが、生涯最大の出来事。そのときの祝宴と花火が、終末部にある亡くなったときの花火へとつながって行く。しみじみとした味わい深い作品だが、母が晩年の父の思いをどこまで理解していたかの描写がやや不足していると報告した。参加者からは、「女性らしい、神経の行き届いた作品で地味だが芸術的に結晶度の高い作品」との声があった。作者からは「父のような名もない、平凡な人間たちが、日本の圧倒的多数で、社会を支えてきた。そういう人間の一生を描きたかった」と語られた。
「南東風の吹いた村」について、風見氏は東日本大震災・原発事故を取材して緻密な調査のもとに、牛の繁殖農家の一家とそれをとりまく人間関係を描いた意欲的な作品として評価。人物描写が主人公をはじめ、単純でなく、屈折した心理を描いていることも特徴的だと指摘した。その上で原発事故への怒りをどこへ向ければよいのかということが課題で、最後に主人公が写真を撮るという「中立」的な行為になっているため、テーマがややはっきりしなくなっているのが残念と分析した。参加者からは「出産のシーンが感動的でリアル」「今日的な社会問題に果敢に取り組んだ力作」との声があった。しかし、問題が未整理のまま提起されている点など課題も指摘された。また、主人公の友人の良一の天罰発言の解釈をめぐって議論となった。作者からは、場所を特定しておらず、また、モデルの人物がいるわけではない。事実を押さえながらどう虚構の世界を書くのか難しかった、と話された。
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