「作者と読者の会」 2012年1、2月号 


 
  一月二十七日、十二名の参加で民主文学会事務所にて開かれました。司会は旭爪あかねさん、とりあげた作品と報告者は、風見梢太郎「週休日変更」(一月号)が櫂悦子さん、石井斉「父の後ろ姿」(二月号)が橘あおいさんでした。
 櫂さんは冒頭に「『週休日変更』は父子の交情をテーマにしていない作品」だと論争的に報告を始めました。その裏づけとして、家族愛があれば休日に主人公が父親をデイサービスに行かせようとはしないはずだ等の三点から指摘しました。また痴呆症において人格は変化しないはずだから、父親が主人公に対して感情を変化させて結ぶのは主人公に対する安易な赦しに通じるのではないかと疑問も呈するなど、鑑賞を深めるための論点を積極的に提示しました。
 意見交換では、週休日変更が労働者の重要な権利の侵害であるという問題意識を通奏低音としながら、父子やまちの人々のありようを横糸として編まれた秀作であるという意見が出されました。また看護職の専門家の立場から、ヨーロッパの福祉先進国では家族介護への依存を愛情のあらわれとする考え方から脱して、公共の福祉による介護へと発展していることも紹介されました。
 作者の風見さんは、勤務先が節電を口実に週休日変更という重大な労働条件改変をたやすく行ったこと。それによって同僚、とりわけ女性の働くなかまが困り、その相談にのるだけでなく上司に改善を交渉する実践を通じた創作であることを明らかにしました。また、こもごもの議論になった最後の三行について「せめてもの救いがないと主人公がかわいそう」と思ってつけ加えたことを披瀝しました。
 橘さんは二〇〇八年以来『民主文学』に掲載された石井さんの三作品をまず概説しました。そして「父の後ろ姿」では、大学受験の失敗と進路をめぐるストレスから統合失調症を発症した主人公の苦しみ、父との葛藤と和解の予感が描かれていることを分析的に報告しました。とりわけ看護学校教員として精神科「保護室」を視察した経験も交えた報告は橘さんならではのものでした。
 意見交換では、病気を発症した後の主人公が幻聴によって父親を刺して重傷を負わせる場面のリアルさが高く評価されました。あわせて主人公以外の心理を描くために文体を発展させることや、大学受験・進路に対する認識の問題などの指摘もありました。
 作者の石井さんは、「父の後ろ姿」が編集部と四回のキャッチボールをして掲載されたことを紹介しながら、「高熱が治まったばかりで参加をためらったが、来て本当によかった」「次のステップのための貴重な機会になった」と感謝のことばをのべました。
 終了後に恒例の懇談が場所を移して行われ、紹興酒のボトルが何本も空くなど盛況でした。
 
(森下 敦) 
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