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九月二十八日(金)午後六時半より、文学会事務所で作者と読者の会が開かれた。須藤みゆき「義父のかばん」を乙部宗徳氏が、三原和枝「スノードロップ」を櫂悦子氏が報告した。予定では「義父のかばん」を真木和泉氏が報告することになっていたが、真木氏の急用で乙部氏が報告することになった。司会は丹羽郁生氏。参加者は十一名。
横断歩道の信号待ちをしているわずかな時間に、回想シーンを織り込む構成になっている。ひきこもりは今日的な問題であり、そのひきこもりの夫がよく描けている。比喩が効果的に使われている。それが小説世界を厚いものにしている。主人公の変化のさまを描けたらよかった。広がりを持った作品を今後に期待する、などと乙部氏が報告した。
「突き詰めてゆく姿勢が感じられる」「結末が成功していない。後ろ向きになってしまっていて、カタルシスが得られない」「義父が電力会社に勤めていたことになっているが、その効果が見えてこない」「主人公が夫をどう見ているかが、よくわからない」「わかりやすい小説で、凄まじい世界を描いている」「主人公と夫の共依存の関係が描かれている」などの意見が討論の中で出された。
作者の須藤氏は、編集部のアドバイスがなかったら書けなかった、フィクションを描いたが書かれている感情や思考は私の気持ち、格差は絶対悪だと思っている、分からないと指摘されたが、わたし自身いろいろ模索中なのでそうなったのではないかなどと述べた。
「スノードロップ」について櫂氏は次のように報告した。自分を尊敬し、応援してくれた息子を交通事故で失った母親の悲しみが伝わってくる。場面、場面が明瞭に書かれていて、展開もわかりやすい。息子を亡くした母親としての悲しみだけでなく、自らが女優として一貫して生きてきた人生を重ね合わせて書いていることがいい。ただ、夫の描き方が淡泊に過ぎたようだ。
「同様の体験があるので、身につまされて読んだ。自分は自分の不幸としかとらえられなかったが、そこを抜け出していることに感服した」「不条理な死を、二十九枚で描いたのはなかなかの力」「夫と一緒に立ち上がろうなんて思わないほうがよい。客観的に書かれていて、強さを感じた」「人の死を乗り越えてゆくむずかしさを描くのは私たちの課題」「三・一一との結びつきが自然に感じられていい」などの意見が討論の中で出された。
作者の三原氏は、山の文学学校で(体験を)泣きながらでも書いてみたらといわれて書いた、書いている過程で整理され、文学と出合えて救われている、被災地の問題は他人ごとではない、命、家族の問題は大きなテーマとして書いていきたいなどと述べた。
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