|
七月二十九日(金)に八月号の作者と読者の会。司会は櫂悦子さんが務め、新鮮でした。参加者は十一名。作者の中村恵美さんが盛岡から参加したこともあり、東日本大震災が、いかに生きるかを追い求める私達にどのような影響を与えているかを考える会になりました。
石井正人さんが風見梢太郎作「新しい夜」を報告。連作の四作目となる作品。主人公俊郎は母を徘徊で事故死させてしまったことで悔いを残した思いから、継父泰蔵の介護にあたっていたが、泰蔵も亡くなる。泰蔵の友人であった栗林もパーキンソン病だった妻真沙子の最期に言葉を交わせなかったことに悔いを残している。作品の舞台となっているのは、南関東の海辺にある老人施設コムーネ・マリーノ(イタリア語で「海の共同体」)で、それは人生=海を巡る長い航路の末にたどり着いた終末の地を現している。次々と先立っていく道連れ、個人の非力、愛を尽くせなかった後悔をもちながらも、それでも新たな結びつきを必要とし、作り上げていこうとする姿が描かれていると報告。作者のホームページの絵をパソコン画面に取り込んで、パワーポイントによるビジュアルな報告がされました。
討論では、恵まれた人達を設定したことで、純粋に人間の幸福とは何かを掘り下げ、生と死を根本に立ち返って問い直しているのではないか、一人称と三人称密着型の視点による違いなどが話された。最後に風見さんから、「失われた時間」から四作書いてきて、まだどうしても書きたいことがある。編集から「深みがない」とだけ言われたことが全体を見直すきっかけになったと話されました。
次は、中村恵美作「海と人と」を能島龍三さんが報告。東日本大震災の当日、私の視点で二人の子ども亜紀と咲希と津波から逃げまどう様子を描いて、この大震災に文学としてどう向き合うか、いち早く書いたという点で大事な作品。みんなで力を合わせて行こうという通奏低音が流れているが、多くの人が亡くなっている現実の重さと比較すると明るすぎるのではないかという思いもある。避難するときは老人が助けられ、最後は苦労を重ねて来た人によって若い人が励まされることが描かれて、小説としてのまとまりをつくっている。
討論では、地域の人々の連帯と同時に、登場人物の内面に踏み込んで欲しかった。方言がすごく生きている。半日に限定して、大震災と津波の一面をとらえていると意見が出された。中村さんからは、地震の時は盛岡にいて、河口近くのある街を想像して描いた完全なフィクション。被災と向き合う核となる人物として昭和の津波も経験したトヨを八十七歳と設定した。被災者が読むことを思って傷つけないかという意識が働いた。間を置かずに書いていきたいと、強い創作意欲を感じさせる話がされました。
|
|