「作者と読者の会」 2011年7月号 


 六月二十四日(金)午後六時三十分から七月号の佐和宏子氏の「樹下に眠る」と笹本敦史氏の「瓦解」の二作品について十二人が出席して話し合われた。司会は仙洞田一彦氏。作者のうち佐和さんが出席したが、笹本氏は岡山県在住のため、欠席となった。
 「樹下に眠る」は、風見梢太郎氏がレポーター。登場人物、ストーリー、そして、八点にわたって作品に対する感想を示した。そのなかで、一人息子を失った恵子への「私」の哀悼と心遣いにあふれた作品であること、現代の若者の生き難さにあらためて「私」が思いを馳せるところが作品世界を広げていることなどが評価点としてあげられた半面、自殺の原因がはっきりとわからないままの作品となっており、死んだ亮一のかかえる心の闇に容赦なく迫ることで見えてくるものがあるのではないか、という指摘があった。
 出席者から保育園児の親として交流を深めていた女性の友情物語として読むことができ、さわやかな作品、という意見が出される一方、なぜ亮一が死を選び実行してしまったのか、それに対する作者としての追究を深めることが必要だったのではないか、という意見も出された。
 作者の佐和さんは、亮一になぜ、かけがえのない生命を絶ってしまったのよ、みんなを辛くさせて――という思いで作品をつくったが、その思いが伝わらないことについては、さらに深めていきたいなどと話した。
 「瓦解」は山形暁子さんがレポーター。作者の笹本氏が昨年の支部誌・同人誌推薦作で、「声を聞かせて」で入選したこと、その世界と今回の「瓦解」で描かれた世界の違いについて丁寧に分析し、「瓦解」は非正規労働者の不安定な職場環境と希望のない生活ぶりを描いているだけで、格差と貧困の原因について十分に考えきれていないのではないかと問題提起。
 出席者から作品の世界は狂気の世界となっていて、あまりにもつくりごとになっているのではないか、若者のおかれている現状についてリアルに描かれているところもあるが、最後の場面は、殺人を肯定しており、よい作品とはいえない――などの意見も出された。
 作者が参加されず、意見交換ができなかったことは残念だった。    
(苫 孝二) 
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