「作者と読者の会」 2011年6月号 


 
  五月二十七日、十六名の参加者があった。作品は、第九回民主文学新人賞受賞作、たなかもとじ作『顔』、同じく佳作、橘あおい作『ルージュをひいて』の二作品。司会は丹羽郁生氏。
 
 『顔』の報告者澤田章子氏は、テーマや構成などの観点から、レジメに沿ってきめ細かく分析、報告された。個人の主張が通らない機構の中で、一人の人間としてどう生きるべきか、近代文学の中で書かれて来たテーマを、今の社会の中で、具体的なタクシードライバーを通して追求している作品。よく練られた文章で、ドライバーの生活と心理、動きがありありと描かれている。時節の設定、過去の体験も効果的。専務および調査官の官僚的な態度、主人公の気の弱さ、誠実さ、生活への真面目さ等人間像がよく表わされており、女社長の考え方、態度も感動的。話題の中心になったのは、報告者から課題として提起された、主人公が自ら落ち度を認める部分。「いささか唐突な流れになっている。社長の言葉との噛み合わせがほしい」「無意識の中に乗車拒否に似た思いがあったのではないか。ここからも主人公の人間性が感じられ、自然に読めた」「自分を認めてくれている桜子社長に、これ以上迷惑はかけられないと決意したのではないか」等の意見が交換された。他に、「同じ会社で社長と専務の考えが対立しているのは不自然な感じがする」「お弁当を作り、主人公の帰宅を迎える時の態度等、つましく家庭を守っている奥さんがよく描けている」「『顔』というタイトルが良い。最後の場面は映画のシーンのように浮かんでくる」等の疑問や感想等活発に出された。シリーズで後二、三作は書きたいという作者に、次は、「管理協会とタクシー業界、壁に掛けられた『賞状』に見られる各機関との繋がりや裏の背景なども視野に入れて」「桜子社長の人物像なども具体的に」、との要望も出された。作者からは、「スターウォーズのロボット兵隊のように、みんな同じ機能を持って、同じ顔をして流されていくような状況。人間には一人一人個性がある。それが機構の中で反映されないのはおかしい。そんな思いを精一杯書いた」と話された。

  『ルージュをひいて』の報告者旭爪あかね氏は、登場人物や作品の構成を踏まえて、「過酷な医療現場の状況がリアルで、読者の胸に突き刺さって迫ってくる。その中で、主人公の人を大切にする人柄、心の温かさがよく描かれており、働き続けたいという思いも、医師の成長や患者との交流の場面を通して深く共感できた。タイトルでもある、化粧したいという恵子の思いからは、生きていこう、前を向いて歩き始めようという強い気持ちが伝わってくる。ただ、労働の過酷さ、家族への負担等、状況が変わってない中、『恵子の分まで大好きな看護の仕事を続けていこう』とする主人公の思いが深く掘り下げられず、テーマが追求し切れてない印象が残った。作品には作者の人柄がにじみ出る。優しさだけでなく、しなやかな強さを感じさせる励ましのこもった作品であった」と報告。参加者からは、「トイレにも行けない長時間の手術等、看護師の本当に過酷な勤務状況を、よくぞ書いてくれたという思いで読んだ。さらに、それらの困難をどう乗り越えて、『仕事を続けていこう』と決意しているのか。『支えられている仲間』のこと、それらをもっと書いてほしかった」「生き甲斐を求めて生きていこう、一途に生きようとする姿勢が一貫していて感動的。やはり最後の言葉をもっと説得力のある描写で描いて欲しかった」等の他、同じ職場の薬剤師であった恵子の婚約者や主人公と恵子の関係等にも疑問や感想が出された。「感動したのは、ルミの優しさ。友達にも後輩にも患者にも、本当に優しい。一番胸を打たれた」との言葉が参加者の共通した思いだった。作者は、「過酷な現場の現状を変えていく強い女性を書きたかった。署名活動の取り組みなども書いたが、運動は小説にはなりきれないと作品の半分近く切り捨てた。もっと推敲すべきだった。職場をどう変えて、家庭生活とどう両立させていくか、そこを書いていきたい」と語られた。     
(宮城 肇) 
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