「作者と読者の会」 2011年5月号 


 
 四月二十八日(木)に五月号の稲沢潤子「墳墓」と間宮武「風葬の座」とを取り上げて話し合った。参加は十一人、高齢の間宮さんは夜の会合には体調の不安があり残念ながら欠席されて、お詫びの言葉があった。報告と討議を工藤威さんが司会した。
 「墳墓」を田島一さんが報告した。「作品を読んで、最近畜産農家を襲った異変の実態と本質が、日本の社会がもっている歪みと、農業政策の貧困や政治の無責任さも含めてよくわかった。作者が畜産農民の内面にまで入って描いている、これは小説の力だと思った。これだけ深く取材して書いた作者の努力に感服した。作者のモチーフの強さによるものだと思う。秋には墳墓にコスモスが咲くだろうという結末も印象深い。花に畜産農民の悲しみよりも、むしろ彼らの屈しない生命力の強さを感じた。アクチュアルな主題に正面から向かい合うこのような小説こそが、いま民主主義文学に求められているのではないか」
 参加者からは、東北の津波や放射能被害と重ねて、それと共通するものを感じながら読んだ、豚の描写が豚の個性までとらえて生き生きとしていた、支部でも取り上げて合評した、いまこれを書いておかねばという作者の決意を感じた、感動したなどの感想が出た。
 作者からは、日本の社会の危うさを放置できないと思ったという執筆の動機や、取材が困難だったこと、事態に一番困っているのは農家と村役場で、国は机上の計画だけですべて現場に押しつけてしまう、そのことへの怒りがあったことも語られた。
  「風葬の座」は乙部宗徳さんが、作品を読む上での参考として、かつて『民主文学』に載った中村昌義さんの間宮茂輔追悼文のコピーなどを参加者に配布して報告した。
 作品に描かれている出来事の流れを懇切に説き、伯父の歩みを追いながらもそこに作者の発見があること、作者の文学観や、間宮茂輔と中村昌義の文学に対する批評が厳しいこと、その作者の姿勢などにも触れた。
 参加者からは、若い頃には芥川賞の候補になり数々の文学賞も得ている作家らしい文学的な文章に感銘を受けた。身内に対してじつにクールである、などの感想が出た。
     
(小林 昭) 
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