「作者と読者の会」 2011年3月号 


 
 二月二十五日(金)、小西章久「震災の日に」、安藝寛治「温泉のメダカ」(ともに三月号)をテーマに、八名の参加で行われた。                             
 小西章久「震災の日に」について報告者風見梢太郎氏は、阪神・淡路大震災のときの百貨店売場の様子と働く人々の感情をよく表現しており、こういう作品は『民主文学』でも少ない、経営を優先させ開店を急かす人々と従業員の安全を考えそれに抗する人々の対比がよく書けており、玉木課長の言動が光っていると評価。ただ、主人公が百貨店ではなくテナントの従業員で、しかも店長を任されて張り切っているという設定なので、主人公内部の葛藤としても描けるとなおよかった、社会的必要から開店する場合もあるので、開店を単純に否定しなかった点はよいが、主張はその分弱まった印象がある、また、全般に盛り込みすぎで分量も多いのではないか、と指摘した。
 討論では、友香や牧人の両親のことは不要ではないか、持ち込まれた写真で初めて甚大な被害状況を知る写真屋という設定は巧妙で、恋人の安否確認と仕事との間の葛藤もよく出ているが、経営者の悪さが単調な感じがする、事実描写は克明で意義深いが大災害を経た主人公の人間的変化・成長が伝わらない、などの意見が出された。
 安藝寛治「温泉のメダカ」について報告者井上文夫氏は、弱者の象徴としてメダカと老犬モモが描かれ、元気になったと礼状を寄せたメダカをあげた子どもの姿と、ひそかに死んでいったモモの姿とが、生と死を浮彫りにしていると述べ、主人公の猛男自身も癌を患い解雇されているが、休耕田に舞い降りたトキが猛男の生きる希望を象徴し、解雇した零細会社が身売りする姿を見て恨みも消えたという描写は、作品に深みを与えている、ただ、次々に現れる人物と猛男の反応は巧みに描かれているものの、やや表面的でモチーフが分かりにくく、子どもと母親などをもう少し掘り下げて書いた方がよかった、と指摘した。
 討論では、癌を患う猛男の不安を下地としつつ心安らぐ世界が描かれて味わい深く、文体の力も感じるが、足湯でメダカを売るという設定は入浴客には鬱陶しくないか、生活苦もない様子の猛男がメダカを売る理由が釈然としない、などの意見が出された。
 最後に作者安藝氏から、自身の病気の体験から子どもと犬に生と死を象徴させてみた、また、休耕田で絶滅危惧種のメダカが復活するところに、農業政策への批判を暗に込めた、さらに、経営難でも雇用を護ろうと苦闘する零細企業主の姿も書きたかった、ただ、短編なので説明的な書き方に止めたところがあり、執筆期間が短い事情と併せて平板になったようにも思う、とコメントがあった。
  
(松井 活) 
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