|
八月二十七日の会は、作者の事情で順番を入れ替え、須藤みゆき「九月の再会」を岩渕剛氏が、橘あおい「スプーン一匙」を風見梢太郎氏が報告して行われた。司会は丹羽郁生氏、出席者は十五名。
「九月の再会」について、岩渕氏は、これまでの作品に言及したあと、今度の作品は、薬剤師の女性の、父を早くに失い母一人の働きという貧しさの中で育てられた兄妹の確執をふまえ、長く会わなかった甥・姪と再会する話を描いたものと紹介。焼き鳥屋の靖子の家族との関わりを対比させながら、甥・姪との関係を改善させることで、新たなステップに進むというこれまでとは違った結びつきを描いていて良い作品と報告した。参加者からは、「貧困が何をもたらすかを丁寧に描いている」「兄妹がなぜ不倶戴天の仲になったのかもう少し書いてほしい」「共感出来たが、兄の子と会うことで和解への糸口となるか、最後があっけない」等の感想・意見が出された。作者は、「兄のメールが不自然、何故か」という疑問に対して、「子どもを介して和解を求めてきた、という意図で書いた」と答え、また、最後の「おばちゃんだよ」と何度も言わせているのは、自分の気持ちの高ぶりのために、こういうものになったと発言した。
「スプーン一匙」について、風見氏は、誤嚥性肺炎になった八十七歳の武藤の治療を巡って、医療スタッフ・患者・家族間のやりとりや対立を描いて、看護師長である紘子の立場から現場の矛盾を見つめた好編であると報告し、最後の「めでたし」はこれでよかったか、など幾つかの疑問も提出。参加者からは、「医療や病気のことがよく描かれ、登場人物もよく書き分けられている」、「春日と紘子の対立をもっと掘り下げてほしい」という意見の一方で「春日は作中人物の中で一番葛藤している、終末期医療がよく書けている」という意見も出た。また「いまや医は仁術でなく算術である、という現実の中で仕事をしている葛藤・苦悩がうまく描けている」等の意見・感想が出された。作者からは、「この作品は、自分の職場を舞台に初めて書いたもので難しさがあった。患者の立場とか、自分の本音とか、生を全うするということは何かとか、いろいろ悩み反省しながら何度も書き直し、教室や全国研で学んだことも役立って仕上げることが出来た」と結んだ。
|
|