「作者と読者の会」 2010年8月号 



 七月三十日、十九名の参加で「作者と読者の会」が三浦光則氏の司会で行なわれた。
 最初に相沢一郎「父の微笑」を仙洞田一彦氏が、作者は神戸在住で今日は不参加との前置きの後、報告に入った。一九九五年一月十七日の阪神・淡路大震災の翌日からの出来事を、主人公西村由紀雄が父に寄り添う形で書かれた小説。三つの特徴があるが、なかでも由紀雄の父についての思い出は生き方に触れて感動的。尊敬できる父が震災で発病し、早く元の姿にもどって欲しいというところは良く描かれている。工夫点として、父の回復にしたがって家中が明るくなるという所は、場面として処理して欲しかった。発病と震災の因果関係がわからないので、小説のメリハリを弱くしているという点が述べられた。討論では「いい家族だ」「父の回復で家中がなごやかになるという所は感動した」。ボランティアを詳しく描いて欲しいという意見も出たが「テーマと関係ないので必要ない」「震災で脳梗塞を発症することはある」「白川のおばあちゃんが父と対比されていて哀しい」などの発言があった。
 瀬峰静弥「春風」を旭爪あかね氏が報告した。高山本線の路線図を示しながら七つの節に分けて説明。風景描写が生きている。鉄道の専門用語も雰囲気で分かる。主人公弘己が誇りと愛情を持って仕事に取り組んでいる姿を描いたのは──誰もがこのように働ける世の中だったら──という希望を確かめたかったのではないか、と報告した。「弘己を取り巻く高校生とのやりとりは感動した」「作者の人間性が出ている作品」「文章に破綻がなく、方言が生きている」など、討論では報告に賛同する発言が多かった。作者は豊橋の勤務を終えてかけつけてくれた。「舞台は現代。都会の車掌に読んでもらいたくて書いた。組合が四つあり、思想的な対立があって大変だった。名古屋から高山に左遷させられた」などを話され、参加者からはこの小説の裏には深いものがあったのかという驚きの声があがった。若い作者へのエールと期待をこめて会は終了した。
  
 (蠣崎澄子) 
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