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三月二十六日午後六時半から、民主主義文学会会議室にて、二人の作者を含めて十五人の参加で「作者と読者の会」が開かれた。
岩渕剛さんの司会で進められ、最初に渡邊千葉「銭湯の湯けむり」について、澤田章子さんの報告があった。七〇年代の大阪・高槻市を舞台にした作品だが、重い障害を持った夫の姿がリアルに描かれ、多くの困難を突き抜けていく主人公とその家族を見る客観的な目があり、銭湯の番台にケーキを渡して「媚びを売った」ことへの後悔など心の動きも描かれ、妻・母としての愛と葛藤が見事に伝わってくる。時間経過の不明確さ、夫との強い絆の理由がはっきりしないなどの弱点も超えて、厳しい状況の中でも愛と協力を大切にする主人公や家族など登場人物によって、生きる強さや素晴らしさが読者に伝わる感動的な良い作品との報告だった。作者の渡邊さんは『民主文学』初登場だが、小説を書くためには過去の体験の中の恥ずかしい面もさらけ出さなければ、書きたいことに迫ることができないと覚悟して書いた。今、皆さんの評を聞いていても、とても恥ずかしい思いがある、との発言があった。
井辺一平「桜花」については、亀岡聰さんから報告があった。報告では、作品は同時期に所を変えて類似する高齢者の交通事故死が発生することに「被害者に自殺意はなかったのか」と疑問をもった地方紙記者が「臨死の至福」を説いている「桜花の会」にたどり着く、その顛末記のスタイルで書かれたものだが、ハードボイルド風の社会批評的小説との前置きで、細かく筆を走らせているが、読者の心を打つほど成功したとは言えないが意欲的な作品だ、との評があった。参加者からは、主人公の人間観や人生観にどんな変化があったのか分からないという不満と、ミステリアスな筋の運びで、とても面白かったという賛意を表す両面の発言があった。また、若い参加者から、『民主文学』に載る作品に共通する感想だが社会批判や政治批判が陳腐な印象をもたらしていないだろうかとの提起もあった。作者の井辺さんからは、『民主文学』には久々の登場だったが、市民運動に関わってきた中での体験をもとに書いた、成功していないかも知れないが、作者としては文体も展開もひとつの挑戦だったし、努力したつもり、との発言があった。
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