「作者と読者の会」 2009年8月号 



 七月三十一日(金)夜、文学会事務所で作者と読者の会が開かれ、作者を含め十六名の参加で盛況だった。
 岩渕剛さんの司会ではじまり、最初にとりあげたのは、砂山磬さんの「溶解」だった。報告者に予定されていた牛久保建男さんが都合で欠席されたため報告なしで参加者が自由に発言する形で合評された。一気に読み感動した、心理や人間像もよく描かれているという意見の一方で、七三一部隊のことをもっと書いてほしいなどの意見も出された。また、主人公の思想性についても発言があったが、作者の砂山さんからは「父子の間には、思想性も論理も超えたものがあると思う。その論理的には理解しがたいものが溶けることを書きたかった。私は人生には論理にあてはまらないものがあるから小説を書く」との発言があった。その砂山さんは、作者と読者の会に出席するため岩手県から来てくれたのだ。創作することへの強い意欲が見えた。
 工藤勢津子さんの「ときわぎおちば」については稲葉喜久子さんが報告、働く女性の成長の過程を題材にして「大切な心の受け渡し」が描かれ、人物の書き分けが実にいい、と評した。参加者からは、主人公の生きることへの真剣さに共感をもった、前作に比して登場人物と作者が重ならなくなったなどの感想が発言された。働く者同士の「継承」を常磐木落葉で表現したのはよくマッチしている、との感想や、働く者の心や技量が受け継がれなくなっていく現代の事情については、田島一「ハンドシェイク回路」に通じる面もあるなどの感想もあった。作者の工藤さんは「登場人物と作者が等身大ということから離れたい、との思いを持って何回も書き直して完成させた。登場人物の人生を生きるとの思いで人物をよく見つめることを心がけた」とフィクションの大切さと難しさを強調した。
 
(桐野 遼) 
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