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五月二十九日、定例の「作者と読者の会」が文学会事務所で開かれた。取り上げられた作品は「民主文学」六月号掲載の大川口好道「送り雛」と燈山文久「蒼穹」である。報告者は前者が澤田章子氏で後者が乙部宗徳氏。司会は吉開那津子氏。参加者は十二名で作者は二人とも出席。
まず「送り雛」。第八回民主文学新人賞佳作となった作品である。老母は大切にしていた雛人形を銭湯の罐にくべて燃やしてしまう。その息子が、老母の「奇行」の所以を探究する物語である。それには十六歳で亡くなった娘のことが深く関わっているらしいことが分かってくる。「送り雛」は作者にとって思い入れの深い大切な作品だろうと思われる。感想は「素材が面白い」「作者の誠実な人柄がよく出ている」「母の娘への思いが描かれている」など。また「前半は丁寧に描かれているのに後半はせっかちに進みすぎる」「娘の死、母の苦しみは戦争の傷あとでもあるのだからそこをもっと」「罐に雛人形を投げ込む場面が浮いていて違和感がある」というのもあった。
次に「蒼穹」。秋葉原無差別殺傷事件などに影響を受けて書かれた意欲作である。主人公は鬱病になったことのある予備校の非常勤講師。主人公は夕方の授業までの空き時間に、八王子で起こった殺傷事件の現場に行くため電車に乗る。授業で秋葉原事件にふれた際、生徒から「人権派ぶらないで下さい」と言われたことが気になっている。車内では黒いリュックを背負った男が覆いかぶさってくるようで不快に思う。その主人公の苛立ちがよく描けているという感想が多かった。それは現代の荒廃を自分もひょっとしたら加害者の立場になるかもしれないという視点でとらえているからだろう。その他、「車窓から見える情景描写が良く、感覚を描こうとしていて斬新だった」「主人公の心情がよく描けていて共感できた」などの感想もあったが、一方で「少しきれいごとすぎる」「ラストは無理矢理終わらせた感じ」「テーマにもつながる『怒りに身をまかせちゃダメ。皆と手をつなぐの』という言葉が唐突すぎる」という意見もあった。
総じて活発な意見や感想が出され有意義な会だったと思う。人間をしっかり見つめリアルに描こうという作品が最近増えてきているように思った。 |
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