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4月24日、5月号掲載作品の「作者と読者の会」が、文学会事務所で開かれた。
福山瑛子「空飛ぶエゾ松」は、平和な家庭を営む則子があるテレビ番組をきっかけに、31年前の戦時中、動員で木製戦闘機製作に従事していた日々を回想する作品である。報告者の堺田鶴子氏は、学徒勤労動員に関する資料を示しながら、国民を総動員して行われた戦争であったが、そうした中でもおしゃれや食べ物や恋に、少女らしい楽しみを見出し生きている戦時下の生き様を知らしめた。作者は次世代に伝えたいという思いで娘を登場させているが、ホームドラマのような幸せな終わり方が果たして妥当か。作品発表するいま、70年代からの状況の変化を反映する視点が感じられるか。また学徒動員は、学校、学年単位で行われたが、主人公は募集広告を見て個人的に志願し働いている。そういう形態もあったのかといささかの疑問を感じた。
戦争末期、金属不足から木製戦闘機製作の号令がかかり、最終目標は2万機。離陸と同時に車輪が外れる特攻機として製作されたという。討論では、戦闘機が木製で作られたことを初めて知った。戦争の愚かさを象徴する素材を掘り起こし、よく調べて書かれているという高い評価があった。しかし登場人物の個性も、娘との葛藤も弱いのではないかなどの意見が出た。司会の稲沢潤子氏は、主人公則子を、戦時中では「私」としているが、使い分ける必然もそれに伴う内容の質的変化がない。総じて戦争を捉える感覚が希薄ではないかと批評した。
能島龍三「光の中で」は旭爪あかね氏が報告。「オブセッション」(09年1月号)の姉妹編と読んだ。前作では心的障害児教育の教師の立場から、今回は障害を抱える当事者を主人公にして、その内面に踏み込んだ。作者が関わる障害児教育の意味を捉え直し総括する試みと思うが、主人公は明るく積極的な性格で立ち直りが早い。丁寧に書かれているが、周りの人物は浅く、作品は一本の木のようで単純な印象と語った。
体力的にも優れ天真爛漫の小学生だった主人公早紀子は、男子の嫉妬を買って集団暴行を受け、四年経った今もストレス障害で入院生活をしている。病院付属の学校にも登校拒否していたが、親身な教師や生徒たちとの交流のなかで復帰していく過程を描いている。
討論では、構成と文章がよく読み易いが、予定調和的で感動がない。僅かなことでイジメられる社会のあり方、問題の根本に迫る視点がないなどが語られた。稲沢氏は、主人公の少女は自分を分かっていて説明に終始し、ありそうなのに裏がない。小説としての面白さに欠けるのではと評した。
参加者は11名。作者は都合により欠席。忌憚のない意見交換のなかで、創るという難しさを考えさせられた一夜であった。
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