「作者と読者の会」 2009年4月号 


 
 文学会事務所前の桜も二分咲きのまま凍えるような花冷えの三月二十七日、四月号掲載の林田遼子「ぼうねえ」、泉恵子「紫陽花のうた」を取り上げた作者と読者の会が行われた。参加者九名。司会は丹羽郁生さん。
 「ぼうねえ」の報告者平瀬誠一さんは、作者の体験である紡績工場での労働を描いた前作「風綿」(民主文学二〇〇七年五月号)と人物設定は同じだが内容は全く独立した作品であり、朝鮮戦争後に到来した不況期に生きる紡績労働者の姿をいきいきと捉えた出色の作品であると評価した。中卒で入社した主人公・早智子が夜十時半に終わる遅番で帰宅する途中、町の不良に襲われる場面、寮に入ったことで知る同僚たちとの友情と連帯など、数々のエピソードがリアルに描かれ、とりわけミステリアスな印象で登場するオルグ・美奈子の形象は魅力的であり、早智子や同僚たちの成長の描き方も説得力がある、と述べた。参加者の感想としては、登場人物がそれぞれ個性的によく描けている、現在日本ではすでに消滅した紡績の仕事の中身はよく解らないながらも違和感なく処理されている、特に棉の花の扱い方は主人公たちの希望を表わして象徴的、生理のことをこれほどリアルに描いた小説を他に知らない、などなど。岐阜県から駆けつけた丹羽あさみさんは、作者とは年代がずっと後だがやはり十五歳で紡績工場に入り寮生活をした経験を持つことから、全国研究集会で知り合った同業の仲間と電話をかけ合い「よく書けたねえ。これからこういう作品は出てこないのでは」と作者の健闘を称えあったと発言した。作者は、当時の社会状況を描くためにゆかりの人を訪ねたり、仕事の内容などを描出するために丹羽さんと連絡を取り合ってこの作品を書き上げることができたと述べた。
 「紫陽花のうた」の作者は札幌在住のため不参加だったが、宮城肇さんが詳しいレジュメを作って丁寧に報告した。不登校児を支援するフリースクールに通う生徒たちとスタッフたちの交流を描いた作品で、揺れ動きながらも成長する生徒たちとみずみずしい心で生徒たちとふれあうスタッフたちの様子がよく描かれている。作者は生徒一人一人の心を大切にする教育はどうあったらよいかを問いかけているのではないか。このフリースクールの財政的基盤はどうなっているかを書いて欲しかったと、実際に不登校児の教育に携わっている宮城さんならではのコメントもあった。参加者の意見としては、人々の連帯が大きなテーマ、教育の中の成果主義、格差社会が根底にあるのだろうが、小説として感動が生まれるように書くにはどうすればよいのか、など、活発な論議が行われた。  
(堺 田鶴子) 
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