「作者と読者の会」 2009年11月号 



  十月三十日の「作者と読者の会」には作者を含め二十五名が参加した。澤田章子氏が司会をし、原史江「消えない闇」について吉開那津子氏が「命のいとなみに対するいつくしみ、心地よい温かい思いが伝わってくるが、記録、随筆と混ざり合って小説としては、問題をいくつも抱えている。しかしそれがこの作品の魅力でもある」と報告。「二つの時間の流れが読者にわずらわしい」「タイトルが人の心をとらえる」「文章として感動し先に読み進めない」「小説としてでなく書いたのでここまで描けたのではないか」「弟真にもっと語らせたい」など作品に感動した意見が出された。作者は「戦争に関することが山ほどあって、特に母に叫ばせたい思いが強く、その熱い思いの伝わる作品をこれからも書いていきたい」と述べた。
 柴垣文子「里びっき」について乙部宗徳氏が「米づくりの苦労が生き生きと描かれ、日本の農業の抱える社会的背景を重ね、若い農業者『太郎』の変化は作品の読みどころ」と報告。「人々の努力が具体的に描かれ静かな感動を受ける」「全くの素人が悪政の象徴の休耕田を蘇らせていく姿に感動する」「農業問題の論文ではなく生きざまとして描かれているところがいい」「自然との格闘の細やかな描写はすごい」「里びっきと同じ絶滅寸前の農業をどうするのかを作品化したところはすごい」など。しかし「農地法、輸入自由化のことはいらないのでは」「米で生活していない者の米づくりの甘さ」「米づくりはこんなもんじゃない」の意見も出された。作者は「田んぼだけでなく畑まで耕作放棄されていく村の姿に心を痛め、しかしその中で英知と根気と米づくりへの愛着を持って農業を営んでいる人たちへの敬意の思いを描きたかった。康雄の視点で描くことに苦労をした」と述べた。
 澤田氏は「宮城、京都から参加した作者の作品にこめた熱い思いを二十五人の参加者が共有できた」とまとめた。
 
(寺田美智子) 
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