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九月二十五日(金)、午後六時半より文学会事務所で作者と読者の会が開かれた。参加者はシカゴ大学で日本のハンセン氏病文学を研究している米国人(来日中)も含めた十七名、司会は仙洞田一彦氏。一作目は、入江秀子作「堕胎」。報告者宮本阿伎氏は、作品の背景となったハンセン氏病隔離政策の歴史的事実、被害者の闘いの経緯、先に発表された同作者のルポルタージュ(「週刊金曜日ルポルタージュ大賞」受賞)との検証から、作品の意義、モデルとなった人物等について、熱っぽく語られ、小説の主題、内容、構成に沿いながら、事実と虚構という観点から、なぜ作者は、ルポルタージュのモチーフに重なる人物をモデルとして再び小説化を試みたのか、当事者でない書き手がハンセン病に於ける人権被害の問題を扱う、厳しい姿勢が感じられるか、描く主題の重さに見合う描写の力が十分に発揮されているか等、討論の論点を提起された。「ルポでは描けなかった人物の心の内の真実に迫りたかったのではないか」「静謐な導入部から衝撃的な内容へ、堕胎の場面の状況は良く描けている」「題材については心に響いた。が、主人公がなぜ慰霊祭に参加しないのか、なぜ急遽方針を変えたのか、その心境が伝わらず、肩すかしを食った感じが残った」等の感想が参加者から出され、また、「堕胎は一九六〇年代まで行われていて、憲法よりらい予防法が上にあった」という現実の酷さや、当時の医療水準、隔離政策の推進者が「救らいの父」と呼ばれていた状況についても意見が交わされた。
二作目は竹之内継作「駒鳥の棲む谷」。報告者燈山文久氏は、節ごとの内容を丁寧に追い、優れた描写や問題点も指摘しながら報告し、全体として、出来事や人物の整理が必要ではないか、擬音語の扱い、駒鳥の鳴き声はこれで良いのか、との問題が提起された。参加者からの感想では賛否が相半ばした。他に、「民主文学では新しい境地の作品だ」「作者独特な作風が好き。子供の目線で人物や情景が生き生きと丁寧に描かれている」「健気に、地道に、ひたむきに生きてきた人達が、次の新しい時代を築いていくようで読んで幸せになった」等の感想の他、「テーマ意識の探究を。一点鋭く、焦点を据えて描いていって欲しい」という作者への要望も出された。作者からは、「思い入れの強い作品で、取材も通し何度も書き直した」という打ちあけ話も披露された。 |
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