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八月二十九日、石井斉「働きたい理由」(9月号)、坂井実三「川跳び」(同)について岩渕剛氏の司会により山形暁子氏、仙洞田一彦氏の報告を受けて、参加者十五名が全員発言して交流した。山形氏は「働きたい理由」の作者は「本誌初登場の石井さん」と紹介のあと、「統合失調症という精神障害を持つ三十五歳の青年が同じ病を持つ恋人との結婚を目指し、悪戦苦闘しながら生きる姿が、リズム感のある個性的な文体で丁寧に描かれ、読後感のよい小説となっている」と報告。参加者は「統合失調症を知らない人に対して後ろで笑い声がするなどの表現でよいのか。病気の説明がほしい」「否これでよい」と分かれた。文体について「言葉を削り込みながらより鮮明にしようと工夫している。クリエイテイブな言葉をどう発見していくかが課題」「いいテンポでよくわかる。長編になった時もこの文体でよいか」、モチーフについて「作者の書かずにはいられない思いがずしんと伝わってくる」「むずかしい中味をよく書いた」「深刻な中味を持ちながら希望を感じさせてくれる」「このモチーフを深めてほしい」などの意見が出た。作者は「書くことで前へ進めると思った。統合失調症を知らない人が読んでもわかるような描写をもっと研究したい」と述べた。
「川跳び」について仙洞田氏は「○鉄鋼労組委員長から会社人間となって退職した主人公マサヨシが、入院中の妻を見舞った春の日の午後、次男夫婦とエビスビールを飲み交わしながらの会話―マサヨシの人生は何だったのか。次男に責められながらマサヨシは父親ヒョウエの人生に思いを重ねる。本当の自分を生きたいと思う気持ちが、「川を跳ぶ」という夢で表現された。だが夢は小説の状況を変えられないのではないだろうか」と報告。読者からは「闘って来たにも関わらずこんな世の中になったというマサヨシの屈折感が、蛇がとぐろを巻くような文体で迫ってくる」「カタカナを使うときの狙いは何か」「モチーフは?」「川を跳ぶという夢を最後に持ってきた意図について」などの意見が出された。作者は「カタカナに深い意図はない。父親の生き方にこだわり続けながら長編小説に挑戦中」と述べた。
帰途、雷とゲリラ豪雨に遭遇し濡れ鼠になったが「文学は生きる力になる」と感じた夜であった。
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