「作者と読者の会」 2008年5,6月号 


 五月三十日に、須藤みゆき「雨の記憶」(五月号)、真木和泉「もう一度選ぶなら」(六月号)を対象とする「作者と読者の会」がひらかれた。司会役は、予定されていた吉開那津子さんが風邪をひかれ、稲沢潤子さんがつとめられるという不測の事態もあったが、真木さんの旧友おふたりの参加もあり、総勢十八名、熱気こもる会となった。
 最初に平瀬誠一さんが、「雨の記憶」について報告。この小説の魅力は、足ながおじさんを思わせる伯父さんの形象や、時間処理の巧みさ、雨の記憶というイメージがよいこと、きちんとした設定がなされているところにあると説得的に語り、作者のここにいたる成長ぶりを高く評価された。ただし、「誰でもが薬害被害の加害者になりうるという根拠がよく理解できない」と付け加えられたが、薬害裁判の描写に関しては、意欲的であるが、「課題を残している」という意見と、いや、引っかからずに読めたという感想とが相半ばした。自己の殻から脱皮しようとするせっかくの「テーマ」が「流失している」という評も出されたが、「報告」が挙げた魅力に共感する感想が大半をしめた。最後に作者が、モチーフや方法意識、言いたかったこと、反省点をよく整理して語られたことが印象的だった。
 「もう一度選ぶなら」の報告は、乙部宗徳さんが担当。小説の舞台である「東京教育大学のたたかい」に関する資料(年表・当時の新聞記事一覧)を配布し、小説の背景から語りだす、力こもる報告だったが、作品の概要、青木陽子『雪解け道』の世界との対比、作品の要素(登場人物、エピソードと表現、ビラ貼りでの逮捕)、主題は深められたかなどの項目を立てて論を展開。同窓会に集う旧友たちの描き分け、下宿の夫婦の描写がすぐれていると評価した半面、主人公俊之の造型に関して、「すべて肯定だけで悔恨がないことの無理」や、「誓約書についての組織としての方針はどうだったのか」「木村の自殺の要因をどう見るか。やはり人生を変えてしまったのではないか」など、踏みこんだ批判もなされた。
 討論では、当時を知らない世代の須藤さんが、物理的に失ったものが大きいのに、人生を後悔しない主人公のありかたへの感動を熱く語ったことと、旧友おふたり(お一人は、作中の二宮のモデルだと自己紹介された)が「よく書いてくれた」と小説世界さながらの友情を発露されたこと、そして真木さんが、「日常の生活を民主主義者として生きる」が教育大で身につけた思想だと静かな口調で語られたことが、とりわけ感銘をあたえた。ともに力作、時間が惜しまれる一夜だった。
   
 (宮本阿伎) 
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