「作者と読者の会」 2008年2月号 


 二月二十九日の作者と読者の会は、柴垣文子「鐘を撞く」(二月号)と唐島純三「新幹線車両基地」(三月号)を対象にし、二十二名の参加を得て活発な議論が交わされ、盛り上がった会となりました。
 「鐘を撞く」の報告者堺田鶴子さんからは、作品に若干違和感を感じ消化し切れない恨みが残った反面、心に溶け込んでいく実感も感じられた。後半鐘を撞く話辺りから人物が動き出して鮮明になり結末の場面は大変よかった。しかし前半での主人公の教え子翔の実像がうまく描かれていないこと、共産党の現職議員が次期選挙に立候補しない理由がいま一つはっきりしない、などの報告がなされました。議論の中では、教師を辞めて議員になることの重さや葛藤や苦悩はもっとすごいのではないかという意見や、職を辞しての議員立候補という重い題材にチャレンジしたことに感銘を受けたが、もう少し設定を工夫し議会の状況なども書き込んだ方がよかったのでは、という意見などが出されました。作者からは、実際にあった村長選のことをヒントにして書いたものだが、大変なテーマを書いたのだなということを感じ、ご意見を聞いて大変勉強になりましたとの発言がありました。
 「新幹線車両基地」は国鉄分割民営化の人活センターでの活動家の突然死を、若い妻の視点から描いた作品ですが、報告者の山形暁子さんからは、最初に作者のこれまでの作品とその世界の特徴などにふれ、従来高い評価をあたえてきたが、この作品については、出産という男性からは想像しがたいことを書いたことを意欲的と感じたものの、主人公と夫の人間像があいまいな点、無事に出産し授乳も順調にできているなど、作品冒頭の切迫早産の危惧とが矛盾している点などに引っかかりを感じると批評し、今回の作品は、題材が十分にこなせていない、熟成していない印象を受けた等の報告がなされました。参加者からは、モチーフの熱さが感じられる半面、同様の疑問や批判も出され、夫が人活センターで闘っている姿を描いてほしい、唐島さんにはその期待が強いという意見が多く出されました。作者から事実をもとにして書いたものだが、なかなかうまく描き切れなかった、国鉄分割民営化という大事件を描くには、経営者像も視野に入れた巨視的な視点での作品化が必要であり、それがなかなか難しい課題であるという発言がありました。
 
(山崎秋雄) 
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