「作者と読者の会」 2008年1月号 


 一月二十五日に開かれた作者と読者の会には十三人が参加しました。作品は、一月号の「蝶の巣」(吉開那津子)と二月号の「ぬいぐるみの梟」(平瀬誠一)の二作。「蝶の巣」は、敗戦日の八月十五日をはさんだ激動の数ヶ月を、五歳の誕生日を迎えた幼女の視点から描いたもの。報告者の宮寺清一氏は、「物語は何でも知りたがる主人公の元子が蝶の舞い立つ瓦礫の中を覗き込もうとするところで終わっています。あの姿は、新しい時代を迎えた人たちがこれからどう生きようとするのか、見つめようとする姿として捉えることができるのでは」と。読者からは、「重いテーマを、一切の説明を省略して、徹底して描写、会話ですすめている。すごい」「子どもの遊びの世界、心理が細かく描かれている」「父の死、瓦礫から飛び立つ蝶の群れという生と死の対比が鮮やか」など。作者からは、「読者はいろいろに読んでくださるものですね。要するにこれが私の書きたかったこと。それを書いたということです」
 「ぬいぐるみの梟」は、認知症で老健施設に入所している母親を訪ねた長男が遭遇したこと。母は、大切にしていたぬいぐるみの梟が無くなったと騒いでいるのだが、実は長男が持ち帰ろうとした母の洗濯物入れの袋の中にあったのだ。報告者の、風見梢太郎は、「現代の大きな社会問題である介護を扱ったよくできた作品。家族の衝撃が生々しくリアル。どうすれば、母が人生の最後を少しでも楽しく、人間らしく暮らすことができるか、大きなものが提起されている」と。読者からは、「認知症の母を、優しい目でみて、明るく描いていて好感が持てた」「きれいに纏まり過ぎている。もっと辛らつな内容があってもいいのでは」「文章はよどみなく書かれているけれど、問題は、さまざまな現象を、作者がどう見ているのか、何を訴えようとしているのかが希薄」など。作者からは、「父、母、自分の三者が登場する小説、どんなものか今後の課題であり、楽しみでもある」と。最後に司会の工藤威氏は、「小説を書くという、根幹のところが見えた有意義な討論ができた」と締めくくりました。
(早瀬展子) 
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