「作者と読者の会」 2008年11月号 


 
 十月三十一日午後六時半より、『民主文学』十一月号掲載作品について作者と読者の会がもたれた。取り上げた作品は、高原尚仁郎「遺影」、かなれ佳織「換羽」の二作品。司会は澤田章子氏。参加者は十五名。

 まず「遺影」について風見梢太郎氏が「妻の死、父子家庭のあり様、節子との結婚に至る経過などが渾身の力を込めて書かれている」「家族にこだわって書き続ける、この作者の持ち味がよく出ている」「もっと生々しいつきつめた世界が垣間見えるとおもしろい」などと報告。参加者からは、「古い名作を思わせ、何回も読んだ」「遺影を見る場面や絵本を読む場面が良い」と評価する意見が出された。評価が分かれたのは、結婚に至る経過だった。意見のいくつかは前作「家」(二〇〇五年四月号沼尾名で掲載)との比較で「遺影」が「表現上の深みが増している」と評価された。作者の家族を見る温かい目が感じられるという意見もあった。
 作者からは、支部の合評で「高原は大事なことを書かない」という意見があったが、節子がなぜ結婚したのかは、書かない方がよいではないかと思うと発言があった。

 「換羽」は乙部宗徳氏が報告した。かなれ氏の新人賞受賞作「回転釜はラルゴで」(二〇〇七年六月号)と比較し、共通点として「公務労働(学校給食・保育所)の『非正規化』『民営化』の動きが描かれていること」「今日的主題を、取材に基づいて、若者の変化・成長のドラマとして描いた」二点を上げた。特徴としては「前作は視点の揺れがあったが、その弱点が克服されている」「登場人物の広がりがある」の二つを上げた。また主人公晶子の変化、発展が知識から入っている、登場人物の描き方が善玉、悪玉風になってしまっているという指摘もあった。参加者の意見も、「回転釜は……」との比較で語られたものが多かった。評価が分かれたのは人物の描き方で、前作の方を評価する意見も少なからずあった。今日的主題に立ち向かって書く姿勢を評価する意見が多かった。それらの意見は「職場の矛盾を書くことは大事だが、その矛盾を人間を描くことによって書くことが大事」という指摘にまとめられると思う。また、誰がしゃべっているセリフか分からないという指摘もあった。
 作者は「作品を通じて、保育の現場を多くの人に知らせたい、分かってもらいたいという気持ちが強かった。晶子が一歩踏み出すところが書ききれなかった。工夫の余地があると思っている」と語った。 
 (仙洞田一彦) 
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