■ 「近・現代文学研究会」 第112回(2010年12月) ■ |
ミハイル・ショーロホフ 「人間の運命」 | ||
十二月十日、近・現代文学研究会が文学会会議室で行われ、岩渕剛の司会で能島龍三氏がミハイル・ショーロホフ「人間の運命」を取り上げて報告した。 角川文庫に訳出された短編五つのうち表題作「人間の運命」は一九五六年の作。他の四編は初期短編集から採られた。この四編はショーロホフには習作であったかも知れない。しかし若いソヴィエト文学にとっては色彩に溢れる生きた言葉、緊張と真実にみたされた声であった。 長編『静かなるドン』には、コサックに対する革命側の迫害の事実、それが蜂起を引き起こしたこと、中農層へのソヴィエト政権の対応問題等が抑えた筆致で書かれている。作家同盟などでは、「革命的な、感動的な、革命の未来を賛美する結末」に至らない作品だと、批難が多かった。しかし、ゴーリキーはショーロホフが創作を続けることを擁護した。 その後の長い沈黙を破り、「人間の運命」が発表されたのはスターリン批判直後のことである。作品には、兵士たちは苦労して戦って捕虜になったのに、祖国はどんな扱いをしたのだという批判や訴えも裏に秘めている。 能島氏は作品の流れにそって@戦時の人間の一生と喜怒哀楽に関する全面性A揺るがない労働者の世界観、革命的ロマンチシズムB確固としたリアリズムCこの時代のあり得べき典型的な人間像が描かれていると指摘し、一貫して革命と祖国のために闘ってきた不屈の意志を持ったロシア人が、今後どういう人生を生きるのかということと、祖国防衛戦争で両親を失った何の罪もない子どもがこの国でどう生きていくのかという物語に仮託して、スターリン以後この国は人間をどう大事にしていくのか、という大きな問題を提起しているのではないかと話を結んだ。 討論では、描かれているのは戦争で家族すべてを失ったアンドレイ・ソコロフの不幸と悲しみだ。しかしまたそこから生きていく、これが人間であり、人間の運命であろうなどと話し合われた。 |
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(岩渕 剛) |