「近・現代文学研究会」 第104回(2008年10月)


   右遠俊郎 「告別の秋」  
 

 第104回目の近・現代文学研究会は、十月二十日、文学会会議室に於て、右遠俊郎「告別の秋」をテーマに、新船海三郎氏に報告していただいた。参加者は十一人。
 新船氏はA4判七枚にわたる詳細なレジュメと資料を用意され、丁寧に報告された。
 「告別の秋」は重症の結核患者であった朝日茂が、生活保護患者として生活保護基準などへの個人的な不服申し立てから、患者全体の人間の権利としての闘いに至る内面を描いた作。一九六七年十月の『民主文学』に「今月のすいせん作」として掲載された。その初出誌『遠景』(同人誌)の紹介から、右遠氏のいわゆる朝日茂もの§Z作品のなかでの位置づけ。さらに背景となった「朝日訴訟」についても解説、作品の文学史的意味に話を転じた。
 日本近・現代文学における結核小説の系譜のなかで、患者の闘いを描いた初めての小説であること、命を守るために命を削らなくてはならない不合理はあるが、それは人間として生きるためにやむを得ないことであり、結核による死を宿命とせず、生きるためにあらゆる手立てを講じる者の姿を描いたところにこの作品の意味があると強調された。
 報告はさらに、右遠氏の略年譜および著作一覧を示し、朝日茂との接点についても、作品執筆に至るエピソードを含めて紹介。右遠氏は戦争と青春、知識人の問題について、生きることと文学の課題について、小説と評論の両輪だてで追究した作家であること。売れる小説を求めて筆を歪めることなく、文学ひとすじに歩んだ稀有な民主主義文学の作家であると結んだ。
 参加者からは、「右遠さんはあこがれの作家」という声もあり、こもごもに作品の感想を述べあった。さまざまな意見が出されたが、今日の福祉・医療行政の現状を思うにつけ、朝日訴訟とその人間としての闘いの本質を描いた作品の重みに感銘したという点では一同共通するところだった。
 病床にある右遠氏の回復を願いつつ散会となった。
                        
 
    (澤田章子)     

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