第7回の創造・批評理論研究会が、十月二十五日(木)午後六時三十分より、文学会事務所で行われました。「宮本百合子のリアリズム探究――『道標』から『春のある冬』へ」をテーマに、岩崎明日香さんが報告しました。参加者は九人。
報告の冒頭、岩崎さんは、戦時中の弾圧下、獄中の夫・顕治と意見交換をしながら新しい創作方法論を探究してきた百合子が、戦後、『道標』の中で、どのように独自のリアリズムを展開したのかを、作品に即して考えたいと提起。百合子の日記などの関連資料も使いながら、百合子がソ連・欧州訪問で実際に体験したエピソードが、小説化の過程でいかにフィクションとして再構築されたかを丹念に追跡し、各場面に込められた百合子の創作意図にせまりました。また、報告は、『道標』第一・二部ではまだ生起する事件に振り回されていた主人公「伸子」が、第三部から急速に覚醒し、「明確な心の地図」をもって家族や社会と向き合うようになった描写を示し、人間の成長・発展を描く、百合子独自のリアリズム表現の実像を浮き彫りにしました。さらに、報告は、『道標』の続編として構想されていた『春のある冬』の創作プランに言及。そこでは、社会変革の当事者となった主人公の活躍が、「日記的事実」にとらわれず、「矢が弦からはなれるように」一直線に描かれたであろうことも明らかにしました。
討論では、『道標』創作に際して百合子が行った実体験のフィクション化を「改竄」だとする一部評者の議論の誤りや、同じ「社会主義(的)リアリズム」という名称でも、文芸弾圧を目的としたソ連のエセ理論と、創作方法としてのリアリズムを発展させた百合子の探究とはまったく別ものであること、などについて、活発に意見が出されました。
今後のテーマ・日程は、後日、報告者と調整しながら決めていくことになりました。
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