第五回創造・批評理論研究会が、九月二日(金)午後六時から、文学会事務所で開かれ、久野通広氏が、『宮本顕治文学評論選集』第一巻「あとがき」の今日的意義―について報告、十七人が参加しました。
久野氏ははじめに、日本プロレタリア文学運動の特徴について、@これまでの文学観の根本的な転換、リアリズムへの道が開かれ、とりわけ批評の革新が行われたこと、A文学運動が社会変革の一翼を担い、新しい人間像の形象が行われたこと、Bソ連を中心とした国際的な文学論の影響、天皇制権力による徹底した弾圧のもとでの文学運動であったと前置きしました。
それでは「あとがき」は何を明らかにしたのかについて、久野氏は、第一巻は一九二九年の「『敗北』の文学」(二十歳で発表)から、一九三二年の弾圧以降、検挙を逃れて地下活動に入り、匿名で執筆した諸論文までが収録されていることを踏まえ、第一巻の発刊が一九八〇年十月であり、宮本顕治は「あとがき」でそれらの論文を「現在の到達点に立ってみればという前提での私なりの整理」を、責任ある立場で関わった時期のプロレタリア文学運動の反省的総括として書いたことを強調しました。
発表当時、どのように受け止められたのかについて、久野氏は日本民主主義文学同盟第九回大会(一九八一年五月)大会宣言の「民主主義文学とは、社会の民主的発展の方向を展望しつつ、さまざまな対象をリアルにえがく文学である」という提起と関わって活発な議論が展開された様子を再現しました。「あとがき」は大きな反響があり、当時の文学の焦眉の課題となっていた問題意識への投げかけになったのではないか、いま文学に携わる私たちにとっても大いに糧になるのではないかと示唆しました。
最後に、久野氏は現代に受け継ぎ生かしていくには、@「過去、現在の生きた文学現象の緻密な分析」は、批評のリアリズムの必要条件であることA文学・芸術作品評価の基準論については、「あとがき」では蔵原惟人の「芸術的方法についての感想」を軸に、作品批評の欠陥、限界を分析し、自己反省と合わせて指摘しているB反映論の観点から今日のリアリズムを探求する―─「時代を描く」ことなど課題が示されました。
討論では、基準論、反映論の文学への具体化の問題など、熱心な論議が交わされました。
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