「批評を考える会」 <2014年5月> 


  創作方法の探究(本誌2014年5月号 特集)


  五月十七日(土)三時より、文学会事務所で開催。本誌五月号に特集「創作方法の探求」として掲載された四つの論文(@青木陽子「小説における視点の問題」A牛久保建男「文学における題材とは」B小林昭「人間を描く、ということ」C松木新「小説の面白さ」)を石井正人氏が報告。司会は北村隆志氏。論文執筆者の青木、小林の両氏を交え、十三人が参加。
 石井氏は四論文全体を通して、実作に即して従来の蓄積を踏まえ、論点が整理され、運動の現状と課題を見据えた、内容の濃い文学・批評理論であると評し、各論文の成果や課題などに触れた。青木論文では資料や文献を調べて論点が整理され、技法が「主張」と「効果」をつなぐ重要な役割を担うことが示され、実践に生かしていくことが求められる。「人称」の理解が深まれば、「視点」の問題はさらに深まると補足した。牛久保論文は主題・題材・表現の議論が整理され、「題材主義」批判の今日的到達として建設的な提言である。小林論文は「未来に向かって人間がどう生きるべきなのか」、クリエイティブに動く人間を客観的・倫理的にリアルに描くことを提示した感動的なものだ。人生論・倫理的規範を教会との関係で小説が模索・提示する役割など、大胆な歴史的視点が興味深い。松木論文では内容と形式、主題と表現の問題を「面白さ」という「効果」の視点で論じ、古典的資料も丁寧に参照され重要な示唆が多くある。最後に「芸術」は思想や主題を「物質」としての言語の形で明示化したものと付け加えた。
 協議の中で次のような意見が交わされた。各論文の趣旨や意義をよくまとめた報告だが、やや抽象的である。小林氏の右遠作品の評価について、トルストイの芸術論で言われている「(作者の体験・感動が読者に)感染する力が強いほど芸術性が高い」に通じている。一方、「告別の秋」の評価では、「人間を描くとはどういうことか」をもっと具体的に論じてほしかった。「視点」に関しては著者が「混乱しているところがあるので、起爆剤として書いた」と報告。「作者が描こうとした世界を描きやすい視点で描けばいい」「視点を選ぶことは表現を選ぶことで、視点が乱れれば表現も乱れる」「落語、講談の語りは世界的にも重要視」などの意見も。意義ある論文だが、一度に四つ取り上げるには無理がある。終わりをどう描くかなど、今後も創作方法の探求を検討していきたい。学ぶべき充実した深い論議で、批評研究会ではもちろん、地域や支部でもこのような機会が広がればいいと思った。
        
 (青木資二) 

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