「批評を考える会」 <2011年11月> 

 柴垣文子 『星につなぐ道』をめぐる批評を読む


  十一月二十一日(金)に、「柴垣文子『星につなぐ道』をめぐる批評を読む」というテーマで例会が行われました。参加者は十七名。
 最初に報告者の亀岡聰氏が、稲沢潤子(「しんぶん赤旗」六・二十八付、文芸時評)、尾西康充(『民主文学』八月号、文芸時評)、三木朋子(『民主文学』十月号、『長編完結作を読む』)の各評者が、どのように作品を把握し評価したのかを詳細に報告しました。その上で亀岡氏は、作品の舞台である京都で学生時代を過ごした自身の体験を織り交ぜながら、独自の視点から批評しました。
 この中で亀岡氏は、氏自身を含めどの評者も「星につなぐ道」が、「主人公の伸二が周囲の人物や社会の現実に触れる中で変化・成長する話ととらえている点は共通している、そして各人各様のニュアンスを湛えているものの、主人公たちが生きた時代の息吹の描き方と、育子の形象についての弱点を指摘していることにおいても共通している」と概括を示しました。
 続いて三者および報告者の批評に即しての、活発な論議が展開されました。「過去に光をあてる意義の押し出しが弱いと感じた。その点で稲沢さんの批評に賛成」「尾西さんは近代文学を批評していられる、範囲を広げて他文学作品と比べてみれば、予定調和的に見えてしまうのかもしれない」あるいは「三木さんの批評は内容に即していて、納得できた」などの意見が出されました。その後、参加者自身の感想・批評へと次第に移行しました。その中で、教師になってからの伸二が厳しい現実と格闘しながら共産党員として成長していく姿は、重層的で説得力があると、多くの参加者が高い評価を与えていたのが印象に残りました。一方、学生時代の伸二は生活感が希薄であり、勤労学生としての実体をもう少し具体的に描くべきという意見と、自分の経験でも学生は生活実感が乏しく観念的である、という異なった意見がありました。他に、「育子は『幻』のように描かれていて実在感に乏しい」「どういう時代の青春なのか時代背景が足りない」といった意見も出されました。
 最後に柴垣文子さんから、この作品を書こうと思った動機と創作上の苦労話、批評にも論じる人にかくあるべきものという確固たる命題がありそこから裁断する批評と、向こうから歩いてきてくれるような、創造的、能動的批評の二通りがあることを実感したこと、この会に参加して大きな励ましを受けたことなどが話されました。なお、作者と同様に文華支部に属する、とうてらおさんも京都からかけつけ、多数の参加で大いに盛り上がりました。  
(井上文夫) 

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