六月十七日(木)、批評を考える会では、本誌四月号「特集 話題作を読む」から、三浦協子の川上未映子『ヘヴン』論と、牛久保建男の池澤夏樹『カデナ』論が取り上げられ、岩渕剛、乙部宗徳の両氏がそれぞれを報告した。司会は宮本阿伎氏。出席は九人。
岩渕氏の三浦評論への報告は次のとおり。
「いじめ」という否定的内容が書かれた作品にたいして、評者はどう立ち向かうべきか。三浦氏はこんなことがあってはならぬという立場から、登場人物に深く寄り添いながら、怒りを込めて論じている。が、中途から結末に至るストーリーの流れにたいしては、強い異議を唱えている。その違和感──作者と評者のズレ──は、評者が作者に、不可能なことを期待しすぎているところからきてはいないか。入れ込んだあげくに裏切られている。そこに面白さがあるともいえるが、対象作品との距離を置くことで、見えてくるものがあるのではないだろうか。
討論では、「力を込めて自分の考えを対置、この迫力は抜群、いい評論だ」の一方で、「『コジマ』という少女にたいする批評がないので、納得させられない」などの意見が出された。
牛久保評論について乙部氏は、「批評の前提条件」は、「正確に読むこと」だとして、作品の概要と主題について、評者がどうとらえ、どういう点を評価しているかを、詳細に分析。加えて、「民主主義文学の創造上の課題」に照らして、問題提起をおこなっている点にも着目。「その上で考えたいこと」として、「評論は何を論じ、何を落すか」「文体」(です・ます調は窮屈ではないか)など、率直な疑問点がいくつか出された。
討論では、です・ます調は中村光夫や大江健三郎も使っていると、概ね肯定的な意見。「べ平連のことを二十枚のなかで論ずるのは困難。小説として成功しているとはいえない。脱走兵問題についても同様」と、評者自身(牛久保氏)の振り返りもあった。
現役の会員が執筆した評論を、自由闊達に批評し合うという今回の例会は、小説の書き手にとっても大変刺激的で、有意義な企画であった。
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