「批評を考える会」 <2008年12月> 

 今日的な文学論、芸術論、言語論について
      ─故永井潔さんの著作を読み解く─


 十二月二十五日、「批評を考える会」の十二月例会が文学会事務所で行なわれた。参加者は計十人。
 報告者は「歴史の中の短歌」などの著書で知られる歌人の水野昌雄氏(新日本歌人協会)。テーマは「今日的な文学論、芸術論、言語論について─故永井潔さんの著作を読み解く─」。
 水野氏は永井氏の芸術論について「六十年たっても、なおかつ論ずるに値する芸術論であることに驚かされる。一方、民主文学の作家から、これに対応するような動きが、ほとんどないように思えた。どうしてなのだろうか」と問題提起した。
 報告では、永井氏が晩年に注力した構造主義的なソシュール言語学への批判に関して、国語学者、時枝誠記が昭和十年代に執筆した論文でソシュール言語学批判につながる〈言語過程論〉を提唱していることを紹介。問題意識の共通性と、永井氏の幅広い視野を強調。また、反映論への徹底したこだわりなどの〈一貫性〉も特徴に挙げた。
 参加者の討論では、「芸術には(本質的に言って)変化はみとめられるが、〈進歩〉はない」という見方の是非を巡る議論のほか、「永井氏の構造主義的言語学批判などは、〈相手に届く批判〉になりえていたのだろうか。ミサイルを飛ばしても(着弾しないで)海に落下している印象もある。彼らが提起しようとした問題には答えていないのでは」と言う意見も出された。このほか「美は客観的な存在ではない」との永井氏の主張(鑑賞、評価と切り離せない)について、「芸術における鑑賞の意義を改めて考えさせるものだ」と言う意見も出た。
      
   (夢前川広) 

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