「限界芸術論と民主文学」をテーマに十二月二十日、文学会事務所で「批評を考える会」の研究会が行われた。報告者は北村隆志氏。
北村氏は「民主文学」十一月号の文芸時評「九条の会と限界芸術論」の中で、全くの仮説に過ぎないが、私見によれば、今日の民主主義文学は『限界芸術』のひとつと考えてよい≠ニ述べ、議論を呼んだ。
「限界芸術」は、鶴見俊輔氏が著書『限界芸術論』(講談社学術文庫ほかで刊行)で提示した文芸概念。「専門的芸術家」による専門的享受者のための芸術を「純粋芸術」、専門的芸術家による大衆のための芸術を「大衆芸術」と呼び、非専門的芸術家によってつくられ、非専門的享受者によって享受される芸術を「限界芸術」として区分けした。
従来、「芸術」とは見なされなかった「木遣り」「ふしことば」「絵馬」「らくがき」「いるはがるた」など庶民生活に根ざした文化を重視する姿勢がある。
北村氏は「民主主義文学に作者の体験に基づく作品(広い意味での私小説)が多い」という意味で限界芸術論という切り口から、民主文学の存在意義を考えたいという趣旨で発表したものだと説明。
報告では、限界芸術論が近年改めて評論家等から言及される機会が増えてきていること、「批評が困難であるという性格を限界芸術が内包している」ことなどに触れた上で「限界芸術から何を学ぶべきか考えてみたい」と提起した。
討論では「小説と異なり俳句の世界では、作者イコール読者でもあり、場の文芸という性格がある」「専門家と非専門家を峻別しすぎではないか。それで生活できるだけの収入があるかどうかで区別されるものでもない」「理解はできるが、実際に創作のうえでどう活かすかというのは大変難しいと感じた」などの意見が出された。
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