若い世代の文学カフェ

〔第8回〕 若者たちの未来と文学 ―旭爪あかね『風車の見える丘』を読む
 

 第8回若い世代の文学カフェ「若者たちの未来と文学――旭爪あかね『風車の見える丘』を読む」が9日、東京・東中野にあるフリースペース「らふと」で開催され、20人の参加者がかけつけました。
 民主文学会の会員(作家)自身によるお誘いや中野地区の新聞折り込みなどが功を奏して、これまでにない多くの参加者を迎え、初めての人の姿が目に付きました。

 第一部の旭爪さんのミニ講演「この小説を書くために考えたこと」では、ひきこもりにならなかった人たちの青春を追体験したいという自身の切実な思いと、現代を生きる若者たちの取材を通して物語を書こうとした、という筆者の執筆過程が語られました。
 旭爪さんの率直な語り口には、参加者一同が感動した様子でした。
 さらに旭爪さんは、書き終えての感想として、「ひきこもった人」と「ひきこもらなかった人」が抱えている葛藤は、実は、「地続き」ではなかったのかとのべました。『風車の見える丘』で描かれた5人の若者たちは、社会に出た後、さまざまな困難にぶつかり、テレビドラマのような順風満帆な暮らしをしてはいないのです。参加者は、現代の日本社会がおしなべて若者にとって生きにくいものになっているのではないか、との問題提起として受け止めました。

 第二部の公開合評会では、参加者全員が自己紹介を行ったあと、燈山文久さん(民主文学会会員、第5回新人賞入賞者)がレジュメにそって『風車の見える丘』についての批評の口火を切りました。
 燈山さんは、「風車」で描かれた若者たちが友人同士であるにもかかわらず、お互いを「敵対的競争相手」と見てしまうことに触れて、とりわけ農業の世界へと足を踏み出す若者「新(あらた)」の形象に言及。「若者像の新たな側面としての発見があるが、もっと深められるべきだったろう」とのべました。同時に、どうして大切な友だちでさえ「競争相手」として感じ、行動してしまうのか、その現象面だけでなく意識の発生するおおもとの視点や描写が、作品では少し不十分ではなかったかという意見もそえました。

 公開合評会では、初参加の方を中心に、働く者の立場から物事を見ることの大切さ、作家の「書きたい」という思いへの共感、恋愛のことさまざまな意見が飛び出しました。
 なかでも最高齢参加者(83歳)の女性が、「20歳と23歳の孫が生き方に悩んで、ひきこもりがちで傍で見ていて苦しい。旭爪さんの作品から何か学べないだろうかと参加した。本当なら孫たちを連れてきたかった」と発言し、文学もつ世代をこえた共感と社会へのコミットメント(接点)について考えさせら れました。
 

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